欲しいのはいい色のメダル

高校2年生で大舞台を経験した村岡選手は、狭き門といわれる早稲田大学のトップアスリート入試をクリアし進学した。所属するスキー部は、オリンピック選手を多数輩出する名門だ。足腰を鍛えることがメインの健常者の部員たちとは共にできない練習も多いが、健常者と同じ寮生活を通して高いレベルで刺激を受けながら、確実にステップアップしている。
事実、2015-16年シーズンにはワールドカップの大回転種目別年間優勝を果たし、2017年3月に白馬で開催されたIPCアルペンスキーワールドカップの女子スーパー大回転(座位)では表彰台の中央に上がった。ソチで悔し涙を流した彼女は、3年の月日で正真正銘のメダル候補に成長した。

しかし、2016-17年のシーズンを振り返ると、3位という成績が多い。そこで「順位を上げるためにはどうしたらいいか」を自問自答し、自身の滑りや身体づくりを見直した。
その答えの一つが、国立科学スポーツセンターでのトレーニングだ。苦手だった筋力トレーニングに取り組み、体幹を鍛えて体の安定性が増した。さらに2018年3月の平昌大会を控え、「シーズンを乗り切る体力を作りたい」との思いもあり、ナショナルチームのメンバーたちと共に有酸素運動も取り入れた。

そして、また4年に一度の季節がやってくる。

「『あれ』がまた来るかと思うと胃が痛くなりますね(笑)。でも今は、ソチの悔しさをバネに頑張ることができている。やっぱり緊張はすると思うけれど、今度は違う景色を見られたらいいですね」

平昌では、ソチの悔しさを晴らした村岡選手のとびきりの笑顔が見られるに違いない。
(取材・文/瀬長あすか)

「障がい者だからこその視点」と「おもてなしの心」を融合し
ANAならではのユニバーサルなサービスで世界のけん引役に

ANAグループの1社、ANAウィングフェローズ・ヴイ王子株式会社には、障がいのある社員が約230名在籍しています。その多様性を活かし、社会に貢献できる事業を社内外に広く展開すべく、約1年前に「Universal Standard Survey事業部」を発足させました。

「東京2020大会の開催決定を契機に社会全体がバリアフリーやユニバーサルに関心を持ち始めたことで、当社でもお問い合わせやご相談の数がぐんと増えました。そこに事業化のヒントがあるのではと考えたのが、当事業部発足のきっかけです」 と振り返るのは、白木亜紀社員(取締役)です。

事業内容は、空港や機内、ホテル、レストランといった多くの人が集まる施設を障がい者ならではの経験や感性を活かして検証。お客様のニーズを捉えクライアントの課題を発見し、また利用したいと思える施設やサービスを提案するコンサルティングです。牛島裕社員(Universal Standard Survey事業部長)は、そのポイントを次のように捉えています。

「ポイントは二つあります。一つはバリアフリー法やIPCといった法令・ガイドライン等の遵守のチェックですが、これは最低限のことと捉えています。私たちが本当に大切にしているのは、もう一つのポイント。つまり、障がい者にとって本当に使いやすく、また利用したいと思えるものになっているか、という点です。どんなに法律にかなっていても、お客様が使いにくいものでは意味がありません」

そこには、ANAグループならではの視点も取り入れています。それが「おもてなしの心」です。同事業部では、現役客室乗務員の花田麻美社員(マネージャー)がフライト経験を活かし、その役割を担っています。

「ANAにとってのおもてなしとは、単にお客様のご要望にお応えすることではありません。お客様のご要望を先読みして気づき、こちらからサービスをご提案することこそが肝心です。ANAの客室乗務員だからこそ気づけることと、障がい者だからこそ分かることがあるという点は、共通していると感じています。この二つを融合させることで、これまで以上にお客様に喜んでいただけるサービスが実現できると考えております」

社会全体でハード面でのユニバーサル化が進みつつはあるものの、ただ設置しただけになっているのではないか――。視覚障がい者である古賀孔士社員は、当事者だからこそ分かる現状の問題点や課題を次のように考えています。

「例えば、点字の案内板が設置されている空港は多いのですが、実はその案内板があること自体を当事者は知らなかったりします。それを解消するための音声案内を併設している施設もあるのですが、今度は一度にすべての説明をしようとするあまり、長く分かりづらいものになってしまっています。しかし、これがすべての情報を先に把握しておきたい方にとっては便利、ということもあるわけです。障がいは多様ですし、同じ障がいを持っていても一人ひとりニーズは異なります。そこでコンサルティングの際は、異なる障がいのある社員が一つのチームを組み、多角的な視点で検証することで、誰にとっても本当に利用しやすい施設やサービスを追究しています」(古賀社員)

そうした視点で進行したプロジェクトの一つが、空港のカウンター脇への荷物台の検証・提案です。幹線空港にはお手伝いが必要なお客様専用のカウンターが設置されていますが、それ以外の空港では一般のカウンターをご利用いただくことになります。また、そもそも一般のカウンターは、ご高齢者や乳幼児連れのお客様にとっては、決して使いやすいものとは言えません。そこで、高さの低い荷物台の仕様を検討しました。障がいの有無にかかわらず、すべてのお客様にとって利用しやすい高さや形、そして導線をさえぎらない配置などの検証を重ね、今年の8月に提案に至りました。今後、順次導入予定です。

こうした取り組みは、ANA全体にはもちろん、社外にも広げていきたいと考えています。その意義を、牛島社員はこう語ります。

「例えば視覚障がい者用の点字ブロックは、公共交通機関各社や空港ビルなど、事業者ごとに形状や設置位置が異なっている現状をご存じでしょうか。空港にアクセスし飛行機に乗るまでは一連の流れであるはずなのに、視覚障がい者にとってはそうではない。これは明らかに不便です。私たちとしては、事業者の垣根を越えてこうした課題の解決に真摯に取り組み、お客様にとって本当に利用しやすい環境の整備に向けた提案をしていきたいと考えています」(牛島社員)

そのためにも、ANAのおもてなしの心を融合した視点は不可欠と考えています。

「『おもてなし』という言葉が世の中にあふれていますが、あらゆるお客様にとって利用しやすい施設やサービスをご提案する私たちの事業こそが、おもてなしの具現化だと自負しています。2020年の東京大会をきっかけに、障がいをお持ちの方もそうでない方も、多くの方が日本へお越しになります。その方々が心から満足し、また来たいと思っていただける社会となるよう、より一層力を尽くしてまいります」(花田社員)

ANAグループはユニバーサルの分野でも世界のリーディングカンパニーとなるべく、動き出しています。3年後の2020年を控え、真のユニバーサル社会の実現に向けて、私たち自身がそのけん引役となるために、これからも一歩一歩着実に、かつダイナミックに歩みを進めてまいります。

プロフィール

村岡 桃佳 - Momoka Muraoka -

チェアスキーヤー

1997年、埼玉県出身。4歳で横断性脊髄炎を発症し車いす生活に。小学2年生から車いす陸上を始め、その後、中学2年生でアルペンスキーに転向。高校2年でソチパラリンピック・大回転5位入賞。2015-16年シーズンは大回転でW杯種目別優勝を飾る。2017年W杯白馬大会・スーパー大回転優勝。早稲田大学スキー部所属。

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