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日本のより良い空へ運航支援者が語る夢 必要なのは膨大な知識と経験則地上と空を繋ぐ“賢者”の存在 運航支援者と聞いても、知らない人が大半だろう。なにせ、お客様の目に触れることはまずない仕事である。だがその存在は、空の知識を蓄えた“賢者”とでもいうべきもの。そこには確固たる意思と、どこまでも深遠な道筋があった。  文=吉州 正行  写真=小島 マサヒロ #08 オペレーションサービス部 吉田 直也

パイロット目線で情報を分析し、伝える 羽田空港第2ターミナル。ANAのバックヤードで、モニタや無線機に囲まれたフライトステーションと呼ばれるエリアが、吉田直也の職場である。業務は“運航支援”。飛行機が安全かつ定刻通りに運航するための支援という役割を担うのだ。「…といわれても、なかなかピンと来ないですよね。まずは乗務前の乗員(パイロット)に天気や機材、空港の状況、さらには貨物搭載作業の状況など、知りうる情報を伝達します。また天候や、デブリーフィングなどから得た機体が揺れるポイントの申し送りもしますが、ルート選定や機内サービスの実施タイミングにまで影響するので、とても気を遣いますね。また無線業務では、フライト中の乗員にリアルタイムで変わる様々な情報を伝えるんです」言わんとする内容を、的確かつ簡潔にまとめることに驚いた。逡巡したりまごついたりは誰にでもあるが、吉田に限ってはそれがないのだ。理由を聞いて合点がいった。この仕事には豊富な知識や情報分析する能力のほか、コミュニケーション力も求められるというのである。「特に無線での指示は、一刻を争うことも多いのに、声しか使えません。イメージしやすい言い回しを、簡潔かつ明瞭に伝える必要があります」思いは「地上も空も同じ」だという。すなわち豊富な知識に加え、緊張感と責任が求められる現場なのだ。
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航空会社に入ったからには飛行機が飛ぶ仕組みを知りたかった 入社5年目。空港カウンターなどの業務を経る中で、「航空会社に入社したからには、飛行機がどのように飛ぶのか早いうちに学びたい」と考え、セカンドステージとして、運航支援業務に希望を出したという。「そこからが大変で、多くの規程があるため、膨大な勉強をする必要がありました」向いていたのだろう。几帳面でまじめ。何せこのインタビューの前段で、質問事項をまとめたシートを送ったところ、丁寧に事前に答えをまとめて送ってきたほど。加えて、傍らには常日頃持ち歩くという分厚いノートがある。そこには手書きでびっしりと情報が記されているのだ。地方空港の風向きの傾向や対策、経験則まで多岐にわたる。「手帳を埋めることに快感を覚えているんです(笑)」というが、これは勉強好きでなくてはつとまらない仕事である。
自分の知識と経験ひとつで、状況を覆せるかもしれない 「羽田は24時間の国際空港です。早番と遅番が2セットずつ繰り返します。休みはバラバラになりますが、すっかり慣れましたね」真面目一徹かと思いきや、一方で破顔して話す。仕事ぶりも、資料やデータを見入る姿は真剣そのものだが、誰かと話すときには笑顔があるのだ。運航支援業務に就いてから約2年。ロジックだけでは勤まらない仕事だと学んだ。「以前、担当した国内線が条件付き運航(天候悪化などで引き返す可能性がある便)でないにも関わらず、現地空港の急激な天候悪化のため、出発地に引き返したことがあったんです。私により深い経験があれば、結果が変わった可能性もありました。今でもすごく悔やまれます」だが、経験が結果に活かせる仕事だとも学んだ。「無線業務のとき、羽田に強い雷雲がかかっていて、着陸状態が悪いことがあったんです。前便の情報や観測されている天候状況をもとに、着陸する乗務員に詳細なアドバイスを行いました。その後、ステーションに帰ってきた乗員から、『天気は悪かったけど、おかげでやりやすかったよ』という感謝の言葉をもらったんです。乗員はもちろん、お客様のお役に立てたという実感が持てて、すごくうれしかったですね」普段はお客様の目に触れることがない“裏方”であるだけに、お客様を意識できる瞬間は、印象深いのだという。
日本を空から良くしたい。目指すは支援から管理へ 2014年3月。羽田空港は国際線ターミナルとして、大増便が予定されている。吉田の仕事も、また新しい段階に入りそうだ。「国際線のやりとりが増えますし、羽田から向かう先の空港、さらにルートに関する情報や特性を覚えなければいけません。また勉強が必要ですね」必要なのは増便に伴う新たな要素のみならず。実は吉田、現在国家資格に挑戦中だという。「運航支援者は“支援”が仕事なんです。だから、たとえばルートを決定したり、運航可否判断は下せません。それができるのは、国家資格である運航管理者。実は旅客部時代にお世話になった先輩がその資格を持っていて、少しでも追いつきたい気持ちがあったんです」その権限は飛行機の操縦資格に等しい。高いハードルが設定されているだけに、一朝一夕で取れる資格ではないそう。吉田は平日でも3時間、休日に至っては8時間以上を勉強に費やしているそうだ。「正直、めちゃくちゃ苦です(笑)」が、目を輝かせて大きな夢を熱っぽく語るのだ。その姿を見れば、本気さが伝わってくる。

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