ANA Professionals

  • ANA inspiration of JAPAN

知識、技量、経験。それらを蓄え、手本となる。客室乗務員を育てる仕事 訓練が形だけのものであっては、何も意味がない ANAの客室乗務員が覚えるべきことはとても多い。第一の任務は保安要員だ。それを遂行するための知識や技量の習得に加えて、サービス要員、セールス要員としても学ぶべきことは多岐にわたる。すべて体に染みこませねばならない。加えて品格と頼もしさがにじみ出てこそ一流だ。そこで大事なことは“どう教えていくか”。そのためのスペシャリストもまた客室乗務員である。 文=吉州 正行  写真=小島 マサヒロ  #21 ANA 客室乗務員 インストラクター 仁平 佳菜子

ビルの中に、プールや機体が。すべて、訓練のためだけのもの 羽田空港からほど近いANAの訓練施設には、多様な訓練に対応できる設備がある。取材の日、訓練のための教室に現れたのは、ピンク色のカバーオールを着た女性。インストラクターの仁平佳菜子だ。「訓練の種類によって、着るものが分かれています。サービスは制服を、保安に関する場合はカバーオールなんです。この春から、訓練生は青、インストラクターがピンクに統一されました」と笑顔をのぞかせるが、いざ訓練となると厳しい表情も見せる。たとえば取材したこの日に行われたのは、緊急着水した際の脱出に関するもの。「水上に不時着した際に、ドアに備わったシューターがボートになるんです。ボーイングやエアバスなど、各社若干違う仕様になっていますので、その特性や操作方法を頭にしっかり入れる必要があります」施設内にある大きなプールには、機体の外装モックアップにエアボートが繋がって浮いている。「奥から詰めて!」「バランスを崩さないように!」と檄を飛ばす仁平たち教官の指示のもと、緊張した面持ちの訓練生は、次々ボートに乗り込んでいく。最大定員は約80名。乗り切った時点で、「バン!」という大きな音と共に機体の外装からボートが切り離される。「実際にはお客様を全員脱出させてから、客室乗務員は最後に乗り込みます」
訓練は、想定しうるありとあらゆる状況に及ぶ お客様に安全に脱出してもらうためにも、客室乗務員は的確に誘導する必要がある。お客様に状況を説明し、ハッチの外の様子を確認し、脱出可能かの判断を行い、迅速に誘導するのだ。「そのための訓練に、ドアトレーナーを使います。機材ごとに設備や開け方が異なりますから、それぞれ用意されているんです」機材を忠実に再現したドアトレーナーで、仁平は訓練生をランダムに指名する。とっさであっても手順が的確に行えるか、見極めるためだ。「つい大きな声で指導してしまうこともあります。緊急事態を想定しての訓練ですから、ときには厳しく、少しでも安全性を高めるため、できることは全力で行わなければなりません」施設内には、ほかにも機体の外装を半分に切ったような巨大なモックアップから延びるシューターもあり、定期的に脱出訓練も行われるという。ありとあらゆる状況を想定し、安全を確保するための訓練が行われているのだ。
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教える側に求められる客室乗務員としての技能 実はこの日の訓練は、“新人”に向けてのものではないという。「一度頭に入れてしまえばいいというものではありません。定期的に訓練を行わなければ、客室乗務員としての資格を保持できないんです」教える側の仁平自身、客室乗務員でもある。「新卒でANAの客室乗務員になったときは、期待と不安が入り交じった気持ちだったことを覚えています。日々の訓練は様々な審査もあり大変なこともありましたが、新しいことを一つ一つ学んでいく毎日は、非常に充実していました」約300人の同期と共に切磋琢磨して客室乗務員になれたとき、喜びはひとしおだったというが、仁平はそこで満足せずに着実にステップアップを重ねていった。「勉強することはたくさんあります。チーフパーサーになるためにも、ビジネスクラスやファーストクラスでサービスさせていただくにも、フライトでの経験を積み、訓練に合格しなければいけません」ましてやインストラクター業務を行うには、訓練生の資質や技量を見極める目と、的確に引き上げを行うスキルが必要となる。自ずと自身にも卓越した技能が求められるのだ。だが、快活で常に背筋が伸びている仁平を見ていれば、“お手本”たる資質がどんなものかがよくわかるようだ。
実は涙もろいインストラクターの素顔 「たとえば訓練実習で、代表者の行動を観察することで終わらせてしまう航空会社さんもありますが、ANAでは時間はかかっても全員にしっかり体験させます。またひとつのフライトを作るチームという意識がすごく強いですね。上下関係だけではない、強い結びつきが特徴だと思います」この業務に就いて丸3年。日々大切にしていることは、「なぜ訓練を行うのか」を常に意識させることだという。つまり訓練とは、試験に合格するためではなく、機内のお客様をお守りするためのものなのだ。「『訓練は実践のように、実践は訓練のように』という言葉が使われます。不測の事態でも、客室乗務員が落ち着いて保安任務を果たせるよう、今後も現場と連携を取りながら、訓練をよりよくするお手伝いができればと思っています。また、後進のインストラクターを育てたり、他部署の方と連携してプロジェクトに参加したり、さらに仕事を広げていきたいですね」乗務や実地で教える業務のみならず、今や訓練プログラムの企画・立案・作成など、スタッフアドバイザーという立場まで仕事を広げる仁平。凜とした表情が印象的だが、意外な一面もあるらしい。「実は私、すごく涙もろいんです。訓練や面接で、なかなかうまくいかず悩んでいる子の話を聞いたり、そんな子が本当に成長して、ここを卒業して搭乗業務に就いている姿を見ると、ウルッと来てしまうんです。研修の最後は訓練生より泣いているなんてこともあるくらいで…」

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