ANA

Inspiration of JAPAN

#05 ボーイング747-400機長 小林正樹 あらゆる側面から安全を追求する。パイロットに課せられた役割

責任と重圧は、努力に変えて 空の安全を預かる存在と聞かれれば、真っ先に思い浮かべるだろう。責任があり、重圧もある。ゆえにそこに至るために並々ならぬ努力を要する。“もしも”のために、お客様の安心のために、人生の多くを費やしてきた。それに加えて、どうやら人間性といった資質までも問われる仕事らしい。
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“愛機”に対する想いは責任に変えて

「今日のフライトは沖縄でした。朝7:45に羽田を発って、折り返し便の運航を終えて今に至ります。ただ仕事はこれで終わりません。デブリーフィングといって、飛行に関する様々な状況をほかのパイロットと共有するために、地上スタッフに報告します。またフライト前には、そういった報告を把握し、気象条件などを頭に入れておきます」ANAのパイロット、小林正樹は、まもなく退役を迎えるボーイング747-400の機長だ。「愛着はありますよ。小さいころに見て驚いたのが747ですし、400は訓練生時代の憧れでしたから」と語るように、機長とは“愛着”とともにその機体を知り尽くし、責任を持つ存在なのだ。「常に心がけているのは曖昧さを排除するということです。極論すれば天気図を見なくても操縦はできます。しかしそれで盤石かと問われれば、そうではない。『これでいける』という根拠を組み立てるために、いかに多くのリソースやリファレンスを集められるかが重要なんです」もしもの際に必要な検証をするための準備が、安心につながるのだ。

厳しい育成課程が空の上の安全につながる

機長と副操縦士のふたり1組で飛行機のコックピットに入るのも、いざというときに補い合うため。取り決めは明瞭にしてロジカルだ。「責任は機長にありますから、フライト条件が厳しい場合など、高度な操縦権限を機長が持つんです。機長と副操縦士に明確な線引きはありますが、ほぼ同様の仕事ができる状況にあります。機長に万一のことがあれば、1年程度の経験しかない副操縦士でもすべての責任を背負って操縦せねばなりません」ゆえに、厳しい訓練がある。「英語の研修の後、熊本で半年間基礎訓練を受け、学科試験に合格したら、カリフォルニアのベーカーズフィールドで飛行訓練を1年弱。実技の国家試験を受けて、はじめて事業用操縦士という資格を取るんです。帰国後は双発機、計器飛行の勉強を2カ月やって、再びアメリカで半年弱。私の場合、入社から約6年で飛行機を操縦できる立場になりましたが、その後も訓練は続きます」
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コミュニケーションと人間性。パイロットに求められる資質

しかし現場は、ロジックだけで成り立つわけではない。ノウハウと経験の重要性はいわずもがな。加えて実際は、それだけでもまだ務まらない。「意外に思われるかもしれませんが、コミュニケーション能力は非常に重要です。機長と副操縦士、国際線なら数日間一緒にいるわけですから、互いの深いところまでしっかりわかります。ゆえに、いいパイロットは宇宙飛行士と似ていると思いますよ。技能はもちろんですが、人間性も求められる。バランスが大事なんです」事実、小林はサービス精神旺盛に語る。話の上手さに、聞き入ってしまうほどだ。どうやらそのコミュニケーション能力は、コックピットのみならず客室にも及ぶらしい。「たとえば機内アナウンスは、お客様との接点を持たないパイロットにとって、とても重要なんです。普段は直接会話ができませんから、たとえば降りていくお客様をコックピットからお見送りするのですが、こちらに手を振ってくださる姿を見ると、『喜んでいただけたのかな』と非常にうれしく感じます。こんなときに、仕事のやりがいを感じますね」

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