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Inspiration of JAPAN

#04 ANAケータリングサービス 川崎工場調理部調理課長 山口 貞晴 一皿に込められた技術と熱意。機内食作りの舞台裏

「ひたすら、おいしく」。これも空の上のホスピタリティ ハイシーズンの大型旅客機であれば、お客様の数は300人以上になることもザラだ。そんななかであっても機内食は、常に同じクオリティで、同じ美味しさでなくてはならない。お客様一人ひとりの期待を裏切らないために、どんな工夫がなされているのか。そこには技術ばかりではなく、美味しさのために心を砕く料理人の心意気があった。

機内で“できたて”を実現する魔法のような調理術

側面をたこ糸でキュッと縛られた端正な牛フィレ肉たちには、少し多めに塩こしょうが振られている。油が引かれた大きなフライパンに並べられたとたん「ジュワッ」と豪快な音を立て、辺り一面に香ばしい香りが漂う。業務用IHのコンロは火力十分。下面、側面、上面、あっという間に焼き色が付くが、中身はほとんどレアのままだ。「中までしっかり火を通してしまうと、機内で温め直した際に火が通り過ぎてしまうんです。お客様の口に入るタイミングで最高の火加減にするため、レアに焼くんです」ここは川崎にあるANAの機内食調理施設。シェラトン、ウェスティン、インターコンチネンタルと、名だたる一流ホテルで腕を振るってきたシェフ・山口貞晴。経験は大いに生かせているものの、機内食には独自の調理技術が必要だという。「ほんの少しなのですが、味付けを濃くして出しています。機内は気圧や湿度の関係で、風邪を引いたときのように舌や鼻が鈍くなってしまうんです」ちなみにこのさじ加減は、レシピには載っていないのだとか。
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美味しさのみならず安全も提供できているか

「機内食独自の仕事は、ほかにもたとえば温度管理。肉であれば火を通す際に芯温を75度で1分キープし、4時間以内に5度まで冷却します。これは定められたルールですが」その場で出せるレストランとは違い、どうしてもお客様の口に入るまで時間がかかる。美味しさの工夫もさることながら、気を遣うのは衛生面だ。「無菌に近い環境で調理していますよ」調理場は驚くほど清潔。念入りに手を洗うのはもちろん、防菌スーツに身を包み、エアシャワーを浴びて入場するという徹底ぶりだ。「いかに満足してもらえるか」は、基本を守ったうえでの話。たとえばANAでは熊本産の野菜など国産食材にこだわっているが、それにも“前提”がある。「入荷がない食材があっても、レシピは変えられません。昨日と今日のお客様に満足度の違いがあっては、上質なサービスとはいえませんから。だからどうにか手を尽くして食材を確保するんです」

目指すは世界の最先端。進化を続ける機内食

料理を作るばかりではなく、料理を生み出すことも山口の仕事だ。たとえば国内線のプレミアムクラス向けに提供している、“GOZEN”と“SABO”という軽食メニュー。「マンダリンやセントレジスといったホテルとコラボレーションするなど、革新的な試みを続けています。これは刺激的な仕事である一方、調整が大変なんです」なにせレストランと機内食とでは方法論が違うことは、ホテル出身である山口自身がよく知っているのだ。苦労を重ねながらこのような取り組みを行うなど、ANAの機内食は進化を続けている。「昔は、クラシカルな料理が多かったんですが、今は盛りつけ方や味わいなど、世界の最先端の流行を取り入れるなど、常に新しい要素を取り入れていますよ」取材中、ひっきりなしに山口の携帯が鳴っている。内容を聞いてみると、成田の調理担当と新メニューの調整だという。「デザートの味付けが、もっと洗練できると思うんですよ」と笑う。この数時間後、試食サンプルが山口の元に届くらしい。果たしてどんなものが生まれるのか…気になる方は、ぜひ機内でお試しを。きっと、熱意とこだわりのこもった仕上がりになっているに違いない。
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