新年、あけましておめでとうございます。2022年が皆様にとりまして幸せな年となりますよう心からお祈り申し上げます。
「かけがえのない地球(Only One Earth)」。50年前、中学生だった私はこの言葉に心を大きく動かされました。1972年にストックホルムで開催された環境に関する世界初の政府間会合「国際連合人間環境会議」で採択された標語です。私は「Only One Earth」と国連旗のデザインを組み合わせたポスターを作り、学校の掲示板に張り出してもらいました。昨年12月、真鍋淑郎さんがノーベル物理学賞を受賞し大きな話題になりました。コンピューターを使って開発した気候モデルで、大気中のCO2増加が地表の温度上昇につながることを1967年に世界で初めて示しました。その少し前、米国の思想家バックミンスター・フラーが宇宙を航海する地球を船に喩え、「宇宙船地球号」という概念を提唱しました。「宇宙船のメイン・エンジンは本来再生可能エネルギーだけで動くように設計されているので、化石燃料はエンジンの始動のためだけに使えばよい。人間がエネルギー交換システムを誤使用し、酷使し、汚し続けてきた」と警鐘を鳴らしていたのです。真鍋さんたちの研究は、地球温暖化が現在の経済システムに対する地球の悲鳴だということを科学的見地から検証したものです。
私は大学で経済学を専攻しましたが、在学中に受講した理論経済学には自然環境を資本とみなすものはありませんでした。ところが当時経済学部長を務めていた宇沢弘文さんは、教育や医療など人間が尊厳を守るのに不可欠な制度や自然環境を「社会的共通資本」と考えた例外的な存在でした。2015年、国連は社会に持続可能性や安定性をもたらす経済システムへの変革のため「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げます。「経済」は元々、中国の古典にある「経世済民(世を経(おさ)め、民を済(すく)う)」が語源だそうです。宇沢さんはまさに「経世済民」の視点で経済学のあり方を論じたのではないでしょうか?
さて航空業界が今後、地球環境問題にどう対処していくのかについてご紹介します。IATA(国際航空運送協会)は昨年10月の年次総会で、世界の航空業界が2050年にカーボンニュートラルを目指すことを決議しました。環境に優しい新型航空機の導入や運航方式の改善といった従来の取組みに加え、私たちが今後最も重要視するのが航空燃料にSAFを混合させた航空機の運航です。SAFとはバイオ燃料など、化石燃料由来ではない航空燃料のことをいい、CO2を約80%削減する効果があります。昨年10月ANAグループは、SDGsの具体的な実行プログラムである「ANA Future Promise」の一環として「SAF Flight Initiative」を開始しました。SAFの実用化には多くの困難を伴いますが、ANAはSAFを混合したフライトを今後継続的に運航してまいります。SAFに関して機内誌『翼の王国』に日本航空の赤坂社長との対談記事を掲載しておりますのでぜひご覧ください。
『資本主義と闘った男』という宇沢さんの生涯を綴った本に、本人が若い頃「青い鳥」を探していたという件(くだり)が出てきます。後年、宇沢さんにとっての青い鳥は青い星のことだったのでしょう。ANAグループは今年も全力で青い翼を安全に運航し、皆様から必要とされる存在になれますよう努めてまいります。
全日本空輸株式会社
代表取締役社長 平子裕志