トップに立つために
なにをするか、そしてがまんするか。
頂点に立つために大切なこと

ワールドサーフリーグ(WSL)のプロ最高峰ツアー、WCT(ワールド・チャンピオンシップ・ツアー)。ここにアジア人として唯一参戦している五十嵐カノア選手は、サーフィンが新競技として行われる2年後の東京大会で初代金メダリストになるという目標を掲げている。しかし当然ながら、五十嵐選手の競技人生はそこで終わりではない。プロサーファーとしてのピークは、20~30歳代。現在20歳の五十嵐選手にとっては、2020年のその先もキャリアの本番となる。

「トップサーファーとして知られるケリー・スレーター(米)は11回もワールドチャンピオンになっています。僕も一度と言わず何度でも頂点に立ち、トップサーファーになりたいですね」

しかも、単なるトップサーファーになりたいのではない。ワールドクラスのトップアスリートを目指しているのだと続ける。

「僕の考えるトップアスリートとは、競技者として一流であることはもちろん、頭の回転が速く、話し上手で、格好いい。そしてなにより、その知名度を活用して、チャリティ活動など世界をより良くするための活動を行い、世界中の人がその人のことを知っている。そんな『人』として憧れの対象となり得る存在です。例えば元バスケットボール選手のマイケル・ジョーダンや、サッカー選手のクリスチアーノ・ロナウド、メッシなどをイメージしていただけると分かりやすいかもしれません。僕も彼らのようなトップアスリートになり、ビーチクリーン活動など、より良い環境や世界の実現に貢献できる『人』になりたいです」

世界に影響を与え得る存在となるためにも、まずは競技者として頂点に立つべく日々を過ごしている。では、トップになるために大切なものはなにか。そう問うと、実にまっすぐな答えが返ってきた。

「努力です。ワールドチャンピオンや金メダリストといった大きな目標を掲げ、そこに向けて努力することが不可欠だと思っています。そのためにもまずは練習量を確保することが大切なので、波の状況にもよりますが、一日に二回、計4時間ほど波に乗ることを目標にしています。また、サーフィンに必要な筋力も鍛えています。今年から体幹トレーニングにも取り組んでいるのですが、新しいことをするのは正直、きついです。でも、必要だと判断したらやるしかないですよね」

また、語学力にも磨きをかけている。もともと日本語と英語を使いこなすバイリンガルではあるが、さらに試合で訪れる頻度の高い国・地域で使われているポルトガル語とスペイン語、そしてフランス語も習得した。

「英語は世界共通語ではあるのですが、世界には英語を話さない人がたくさんいます。サーフィンの練習時には、地元のサーファーとのコミュニケーションが欠かせないのですが、ブラジルやポルトガルではポルトガル語、スペインではスペイン語を使うことで彼らとスムーズに話せるようになり、練習がしやすくなりました」

さらに、目標を達成するためには、なにを「するか」以上に、なにを「がまんするか」が大切だとも強調する。

「試合のためにいろいろな国を巡ることで、世界中に友人がたくさんできました。行く先々で彼らが待っていてくれますし、両親と弟が応援に来てくれることも多いので、試合で故郷を離れていても少しも寂しくありません。友人たちとサーフィン以外のことを話すのはすごく楽しいですし、家族と食事をともにする時間も大切にしています。でも、大切な試合の前には友人や家族と過ごす時間をがまんし、トレーニングや練習時間を充実させることにしています。ちょっとしたことかもしれませんが、その積み重ねが大切だと思います」

12歳でプロデビューした五十嵐選手は、少しでも早くサーフィンに集中できる環境を手に入れたいと、練習や試合の合間を縫って猛勉強し、15歳で高校卒業資格を取得した。必要とあれば、多少のがまんをいとわず、努力も惜しまない。高いプロ意識のもと、子どもの頃からそれを実践してきた延長線上に今がある。

それにしても、そこまでサーフィンに打ち込めるのはなぜか。そうした疑問に五十嵐選手は軽やかに答えた。

「サーフィンを楽しんでいるからです。これって、シンプルだけど大切なことですよね。楽しんでいると、一年なんてあっという間に過ぎてしまいます。だからこそ、一日一日の過ごし方が問われると思っています」

時間が有限であることを知っているからこそ、「がまんする」という選択ができる。

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