絶対王者の覚醒

かのフェデラーも認める「世界のクニエダ」

かつて、シングルスは3年間負けなしの107連勝、グランドスラム男子車いすの部でのシングルス・ダブルスの通算優勝回数は世界歴代最多の45回――。数々の華々しい実績を歴史に刻み続ける、車いすテニスプレーヤー・国枝慎吾。彼から感じるのは、その数字にも負けないテニスへの一途な情熱だ。世界ランキング1位を独走していても、決してあぐらをかかず、挑戦を忘れない。その求道者たる姿勢こそが、彼が「真のチャンピオン」と呼ばれるゆえんではないだろうか。

テニス界のレジェンドであるロジャー・フェデラーが、以前国枝について「自分よりグランドスラムに近い選手」と話したとされるエピソードがある。フェデラーのその“予言”の通り、国枝は2007年に男子車いすテニス史上初のグランドスラムを全制覇(※1)。それ以降も世界の頂点に君臨し、2015年には実に5度目となる年間グランドスラム(全豪、全仏、全米オープンで優勝、ウィンブルドンはダブルスのみ開催)を達成した。

一般のテニスと同様、車いすテニスプレーヤーも世界ツアーを転戦する。国枝は北米や欧州への遠征が多く、一年のうち約4か月間は海外に滞在する。グランドスラム以外の大会はコーチが帯同しないことも多く、練習や現地での過ごし方も自分でコントロールしなくてはならない。そのなかで、彼がもっとも大切にしているのが、質の良い睡眠だ。フライト中はあえて眠らず、到着後にホテルで持参した愛用の枕でぐっすり眠るのが国枝流。海外で過酷な試合が続いても、このような自らを律する力が、最高のパフォーマンスにつながっているようだ。

ところで昨年暮れ、日本で調整を重ねていた国枝に何度かインタビューする機会に恵まれた。抜群のコントロールを誇るサーブにも改良を重ね、目標に掲げていた「スケールアップ」を見事なまでに完遂した一年。その充実のシーズンを振り返ってもらうなかで、思わずメモを取るペンを止め、聞き入ったフレーズがある。
「いま、成長段階に入り始めたと思います。人生のベストゲームを更新している感じ」

前途のように、国枝は誰も成し得なかった領域に挑み続けている。その彼が目指すさらなる高みは、自分に課した課題をクリアし、成長し続けることだ。だから、何度頂点に立とうとも、彼の歩みが止まることはない。「もちろん試合に勝つことが大事です。でも、自分は完璧な選手じゃない。だからこそ、上をいく努力をする」と言い切る。

「その積み重ねで、2015年は技術面もメンタル面も“引き出し”が増え、より柔軟に、それを実行する能力がついたということだと思います」

絶対王者の覚醒――。

打倒クニエダを掲げるライバルたちの、壁になる。国枝はそう誓う。

(※1)2007年当時の車いすテニス四大大会は現在とは異なり、全豪オープン・ジャパンオープン・ブリティッシュオープン・USオープンを指す。

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