同じ目線で競技ができる喜び

いまでこそ障がい者アルペンスキーの世界でレースに出場し、メダル争いをする村岡選手だが、意外なことに小学生時代はスポーツが不得手だったという。4歳で病を患って以降、なにかと人のサポートを必要とする車いす生活に引け目を感じていたのかもしれない。読書や室内遊びを好む、決して活発とは言えない小学生だった村岡選手は、クラスメートと一緒に体を動かすことがかなわない体育の授業が苦痛だった。中でもとりわけ「嫌いだった」と振り返るのが、校庭に出て遊ぶよう促される休み時間だ。

遊び相手がいなかったのではない。むしろ、クラスメートたちは村岡選手を鬼ごっこやかくれんぼに誘い、一緒に遊んだ。しかし、車いすでは、鬼ごっこをしても鬼から逃げるスピードは遅く、かくれんぼをしても隠れる場所がない。にもかかわらず、村岡選手はなかなか捕まらなかった。クラスメートたちが気をつかって捕まえないのだ。この子どもながらに「気をつかわれる」という現実はつらかったという。「手を緩めず対等に扱ってもらった上で遊んだほうが楽しい」。そう心の中では思っていても、本心を友人たちに話す勇気もなかった。

そんなとき父に誘われて参加したのが、さまざまな車いすスポーツを楽しむ子ども向けの講習会だった。参加者は自分と同じ車いすの子どもたち。しぶしぶながらの参加だったことなどあっという間に忘れ、思い切り車いすを漕いで遊んだ。遠慮のない鬼ごっこは純粋に楽しかった。

「みんなと対等に鬼ごっこできたことが本当にうれしくて。その感情はいまでもよく覚えています」

自分のフィールドで戦うことができる喜び。この「楽しい」「うれしい」という気持ちが、彼女を障がい者スポーツへと惹き寄せた。障がい者スポーツは、障がいの種類や程度でクラスやルールを分けた上で競い合う。同クラス内でも障がいの程度や内容は一様ではないのだが、同じ条件でレースを行うからには言い訳は許されない。もともと負けず嫌いの性格も手伝って、そうした厳しい条件で競い合う世界に入ってもくじけることなく、村岡選手はチェアスキーを扱う技術をスポンジのように吸収し、トップ選手への階段をぐんぐん駆け上っていった。
いまでは「勝ちたい」という強い思いが彼女をより高い次元へと引き上げている。「好きじゃなかった」と笑う筋力トレーニングを本人いわく「ヒーヒー言いながら」も精力的にこなしているのも、「勝ちたい」「メダルを取りたい」という気持ち故だ。

とはいえ、決してメンタルが強いタイプというわけではない。

「あがり症なんです。レースでは毎回、スタート地点に向かうリフト上で『気持ち悪い』って思っています。もう何年も滑っているのに、斜面を見ると『こんな急斜面を滑るの!? こわっ』と今でも思うんですよ。でも、スタートバーの前に就くと覚悟が決まるのか、すっと気持ちが入って集中できるんです。そのスイッチが入る感覚が好きですね」

メダリスト候補として挑む2度目の大きな舞台を前に、チリで雪上トレーニングを行い、チェアスキーのミリ単位の調整を続ける。スタート前の村岡選手はバーの前で無意識にゴーグルの位置を直し、チェアスキーごとジャンプする。大舞台でもそのルーティーンをいつも通りにできれば、プレッシャーのかかる状況の中でも集中力を高められるはずだ。

「平昌のプレ大会で、本番で使われるコースを滑りました。いわゆる中斜面のコースで、一気に落ちる急斜面や緩斜面が少ないのですが、斜面の角度の変化は多いという印象です。攻めどころなどを研究して、ポイントごとに戦略を立てていきたいですね」

「今は上を目指すチャレンジャーの立場であることが楽しい」と明るく笑う村岡選手。去り際、「だれにメダルをかけてあげたい?」との質問に、うーんと考えた末、「父ですね」と答え、車を運転して去っていった。
これまで支えてくれた家族や周囲の人への感謝を胸に、夢の大舞台で一人の小柄な女性アスリートが自分らしく対等に競える喜びを体現できた日。それが新女王の誕生の日となる。
(取材・文/瀬長あすか)

プロフィール

村岡 桃佳 - Momoka Muraoka -

チェアスキーヤー

1997年、埼玉県出身。4歳で横断性脊髄炎を発症し車いす生活に。小学2年生から車いす陸上を始め、その後、中学2年生でアルペンスキーに転向。高校2年でソチパラリンピック・大回転5位入賞。2015-16年シーズンは大回転でW杯種目別優勝を飾る。2017年W杯白馬大会・スーパー大回転優勝。早稲田大学スキー部所属。

世界最高水準のユニバーサルなサービスの実現を目指しています

搭乗予約から空港利用、搭乗、機内サービス、そして目的地到着まで、ANAと接するあらゆる場面ですべてのお客さまに快適に過ごしていただくために、ANAではユニバーサルなサービスの向上に取り組んでいます。その中で、障がいをお持ちのお客様やご高齢のお客様のためのユニバーサル・サービスのチェックを行ったのが、約230名の障がい者が在籍するANAウィングフェローズ・ヴイ王子株式会社です。
1)危険を回避できる、2)ほかのお客様と同じようにサービスを受けられる、3)一人で行動できる、という3つのポイントに基づき、お客様視点で空の旅に関わる一連の流れを体験しながら調査。車いす利用者や視覚障がい者の場合は、ほかのお客様と同じ導線でスムーズに移動できるかといった「施設やアクセシビリティ」に、また、視覚・聴覚障がい者の場合は、運航の遅れや欠航、搭乗口の変更といった情報を適切なタイミングで受け取り、その後の行動にスムーズに移れるかといった「情報伝達やコミュニケーション」により細やかな配慮が求められます。このように障がいの特性に応じて異なるニーズに臨機応変に、そして何よりお客様のお気持ちや状況に寄り添いながら応対するためには、サービスマインドも不可欠です。できるだけご自身で行動したい方にはそのように、サポートが必要な方にはより適切なタイミングでサポートをさせていただきながら、障がいのあるなしに関わらず、すべてのお客様に同じようにサービスをお楽しみいただきたいとの想いを込め、障がいを持つ当事者としての経験と知見、そして生の声を反映させた改善案を提案し、今後のANAのユニバーサルなサービス実現に向け動いています。

ANAは世界のリーディング・エアラインとして、空の旅に関わるあらゆるシーンにおいて、すべてのお客様に快適にお過ごしいただける世界最高水準のユニバーサル環境の実現を目指しております。そのためにも、ANAウィングフェローズ・ヴイ王子(株)は障がいを持つ当事者ならではの視点とおもてなしの心を融合させた提案を発信し続けることで、ANAグループはもとより日本社会全体のユニバーサルなサービスの向上に貢献してまいります。

ANAウィングフェローズ・ヴイ王子㈱のコンサルティングを行っている社員

Back Number