大舞台の経験が育んだタフな気持ち

大阪市内にあるパシオスポーツクラブ。そのプールでは毎晩、全国大会を目指す学生や社会人らが練習に励んでいる。その中でひときわ目を引くのがパラスイマーの津川拓也選手である。181cmと大柄で長い手足を活かした泳ぎは、なめらかで美しい。

スイミング主任の福留悠介コーチは、舌を巻く。
「彼は背泳ぎが専門ですが、身体の使い方が非常にうまいんです。バサロはとくにきれいで、水中映像を見ると軸がブレることなく、まるでお手本のような美しさ。以前はバサロが苦手だったけれど、自宅で世界のトップスイマーの映像を繰り返し見て習得したみたいです。目で見て覚えるのが得意なので調子の悪いときも、トップ選手の映像を見るように伝えています」

強化の時期は、朝夜の二部練習で約1万2000mの距離を泳ぐ。周囲とのコミュニケーションが苦手な自閉症の彼は、中学生で本格的に競技に取り組むことを決めたとき、「特別扱いはなし」という条件で選手コースに進んだ。自由に泳いでいた時期とは違い、世界の頂点を目指す現在はコーチから求められることは多い。なかなか伸びないタイムを突きつけられ、叱咤されることも少なくないが、持ち前の実直さで自らを追い込む。

そんな津川選手を、福留コーチはこう評価する。
「長く競技を続けていると、誰しも練習のしんどさに気持ちが折れてしまったり、なかなか記録が伸びなかったりすることもあるけれど、津川君は、苦しさや辛さを乗り越える強さをもっている。ずっと厳しい環境でがんばり続けるって、なかなかできることじゃない。精神的なタフさも彼の武器ですね」

2009年に初めて日の丸を背負い、トップスイマーの仲間入りを果たした彼は、2012年、4年に一度開催される最高の舞台に上がった。ロンドン大会では2種目に出場。100m背泳ぎでは6位に入賞する活躍を見せている。

さらに調子を上げている今年は、タイで行われたINASアジア大会で、200m背泳ぎのINAS世界新記録(2分19秒62)を樹立した。

「タイで獲った4個の金メダルとワールドレコードの記録証は大切に飾ってあります」

うれしそうに津川選手が語る。
もちろん、リオ大会でも200m個人メドレーと100m背泳ぎの日本代表だ。

「国際大会を数多く経験し、余裕が出たというか雰囲気も変わったかな。精悍な顔つきになったと感じます」

4年前から一皮むけた津川選手の成長を、福留コーチは感慨深そうに語った。

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