苦しいことも悔しいことも
受け入れて乗り越えてきたから今がある

4年に一度の冬の大舞台がいよいよ目前に迫ってきた。男子フィギュアスケート界では66年ぶり――。実現すれば文字通りの偉業となる連覇への期待を一身に背負い、羽生結弦選手は勝負のときを迎えようとしている。
シーズン開幕直前の昨年8月、練習拠点のカナダ・トロントで行われた公開練習時にはきれいなジャンプを跳ぶなど、好調さをうかがわせる滑りを見せていた。これから徐々に調子を上げていこうという選手もいる中、その仕上がりの早さに連覇への強い思いが込められているようだった。では、実際はどうなのか。心境を問うと、もちろん金メダルは意識しているが、それ以上の目標があると語り始めた。

「最終的に振り返ってみたら勝ってたよね、という演技をしたいです。もちろんそこに行きつくためにはそれ相応の努力が不可欠なので、(成績を左右する)質のいいジャンプを成功させる確率を上げるための準備を一つひとつ積み上げていきたいと思っています」

そのためにも、健康が不可欠という。

「平昌大会には何より出場することが大切ですから。健康第一で練習をしっかり積んで、健康状態がMaxの状態で本番に臨みたいですね」

「18年間スケートをやってきて、やっとこう考えられるようになるまで成長しました」とおどけてみせたが、その時々の状態で思うように滑れなかったり休養せざるを得なかった経験を重ねてきたからこそ、痛感していることだろう。では苦しかったことや悔しかった経験はと尋ねると、こう明かした。

「苦しいことや悔しいことしかないですよ、(15歳以上が競い合う)シニア(クラス)では。もちろん試合で負けるのは悔しいですが、それより一番悔しいこととして印象に残っているのは、練習できなくなったことです。ですから、東日本大震災で被災してホームリンクが使えなくなったり、ケガの治療で練習を休まざるを得なかったときは本当に苦しく悔しかったですね」

こう聞くとNHK杯の公式練習でケガを負った際の心境はいかばかりかと胸が痛むが、数多の苦しみを乗り越えてきたからこそ、現在があるのもまた事実だ。

「僕の人生はアップダウンが激しくて、我ながら良いときと悪いときの両極端を経験しているなと思います。でも、苦しいことや悔しいことも含めて、全部自分なのです」

人生に立ちはだかる壁を前にしたら、誰だってひるむことも逃げ出したくなることもあるだろう。しかし、羽生選手は壁にぶつかるたびに真摯に向き合い、乗り越えてきた。その方法を問うと、それまでの苦難を感じさせない軽やかさで答えた。

「簡単ですよ、物理的にぶつかったときと同じです。精神的に追い詰められて、これ以上先に進めない、絶対に乗り越えられそうにもないと思ったら、壁にドアを付ければ良いのです。そのドアの付け方は人それぞれですよね。僕の場合は、こうして家以外の場で話しているときに『あ、これがドアを開けるカギだったんだ』と気づいたりします。もともと考えることが好きで、良いことも悪いことも受け入れてあれこれ考え、それを理論的に言葉にすることが気づきのきっかけになります。もちろんつらいことがあれば落ち込んでネガティブな気分になりますし、家族の前でネガティブなことばかり言ったりするときもありますけどね。壁の乗り越え方は人それぞれですが、自分の弱みと向き合ってみたら、きっとその乗り越え方が分かると思います」

良いことも悪いこともすべて受け入れて自分の中で整理し、再び前を向く。これができるからこそ、トップを走り続けている。

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