
小さな頃の憧れの職業といえば、宇宙飛行士でした。宇宙飛行士を取り上げたドキュメンタリー番組を見て、すごく感動して、素直になりたいと思った頃がありました。ですので、私のなかでパイロットに憧れていた時期があったかというと、はっきりと意識したことはないのかもしれません。ただ、両親が航空機を利用する機会が多く、航空会社のなかでも徹底したANAびいきでして、「飛行機に乗るなら、ANAに限る」とよく聞かされていました。その影響からか、就職を考える時期が来て思ったのは、ANAが募集をしているのなら、どのような職種でも受験してみたいと思うようになっていました。そんなとき、学部時代にいっしょだった友人と会う機会があり、ANAが自社養成パイロットを募集していると聞かされたのです。将来のパイロット候補を広く一般の大学生から募集して育成するということ自体、知りませんでした。そんなチャンスが存在するのならチャレンジしてみようと思えたのも、それがANAの募集であったことが大きかったと思います。 |
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特に受験のための準備を行ったことはありません。選考が進むなか、当時はシミュレーターを操縦するなどの普通ならできないような経験を楽しんでしまえたことが、いい結果につながったのかもしれません。それでも選考をひとつずつクリアしていくごとに、パイロットという職業に関する知識も確実に増えていき、そういう世界にじぶんが近づいていることを自覚すればするほど、なりたいという気持ちが強くなっていくのを感じました。そして8月の昼下り、キャンパスの図書館にこもって修士論文の仕上げにかかっていたときに、携帯電話が震えました。「合格しました」という連絡に、信じられない思いでしばし呆然としていたことを思い出します。 |
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基礎訓練がスタートしたとき、同期の顔ぶれを眺めながら、その誰もがじぶんより知識も情熱もあるように感じられて、緊張していたことを覚えています。また日々触れることになる知識の何もかもが新鮮であり、それを一つひとつ吸収することに、充実感がありました。渡米して実機訓練に入る頃には、同期とも打ち解けて、連帯感が生れてきます。しかし、その一方で、教官の指導通りに上手にこなせなかったり、準備不足で失敗をしたときなどは、焦燥感にとらわれたりもしました。しかし、そうした厳しい訓練の支えとなったのは、教官の「ここは競争の場ではない」という一言でした。誰かを蹴落してパイロットになるのではなく、全員が同じ目標に向かい、全員で乗り越えていくのだという意識が必要なのだと感じることができたのです。みなさんにお伝えしたいのは、パイロットになれるのは、ごくわずかな特別な人間ではなく、誰にでもチャンスがあるということ。技術ばかりではなく、人間的な成長をとげながら、初フライトの日を迎えたいと考えています。 |
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