
西表島と言えば手つかずの大自然。
国内でもこれほどのマングローブを有する
森は他に類を見ない。
圧倒的なジャングルの広さに
まるで海外の亜熱帯地区に迷い込んだかと
見紛う程の秘境っぷりだ。ここで体験できるものは
そのスケールも段違いだった。
Text:Ryo Kawakami(YAMAKO)
Photo:Masahiro Kojima
朝のエネルギー溢れる西表島の太陽を浴びながら、ガイドさんに入念なレクチャーを受ける。これは今回の旅の目的である「ピナイサーラの滝」へ向かうためのレクチャーだ。目的地まではマングローブをカヌーで渡るため、漕ぎ方や注意事項などを一通り頭に叩き込む必要がある。しかし何よりも大事なことは“本人たちが思いっきり楽しむ”ということに尽きるようだ。

カヌー乗り場は西表島のジャングルの中枢。うっそうと生い茂る巨大なシダの葉や恐竜時代からの生き残りと言われる「ヒカゲヘゴ」など、植物園でしか見ることがないような亜熱帯の植物に囲まれながら進んでいく。森の中ではたくさんの鳥や虫の鳴き声が聴こえてきて、時折ここが日本であることを忘れてしまうほどの別世界だ。知らず知らずの内に童心が呼び起こされ、さながら探検家にでもなった気分でジャングルを歩いて行った。

カヌーに片足を乗せて、ぎこちないながらもなんとか乗ることができると、目線の低さに驚かされる。それもそのはず、腰から下はほぼ水面の位置に座っているのだから。そんな普段見ることのない目線からの景色は特別だらけだった。我々が出発した干潮時には透き通った水面から、群れで泳ぐハゼや40cmもの大きなクロダイが気持ち良さそうに泳いでいる。生い茂るマングローブの幹はむき出しで、川岸にはたくさんの小さなカニが姿を覗かせてくれた。そうした冒険心をくすぐられる自然界の共演者たちが登場していくのも、この旅の魅力である。

気付けばピナイサーラの滝へのトレッキングコースの入口に到着。まだまだカヌーに乗っていたい気持ちを抑え、今回の旅の目的を思い出しジャングルの中を進んで行くと、出迎えてくれたのは神々しい西表島の巨木「サキシマスオウノキ」。さらに小さな「キノボリトカゲ」などの生き物に会えたりと、マングローブとはまた違う世界が広がっていた。滝つぼまではおよそ40分のトレッキングだが、体力は言わずもがな木の幹を伝い、足場を考えながら進むジャングルは意外にも頭も使うのだ。


異空間という言葉が相応しいだろうか。ジャングルを抜けると突如、切り立った岸壁が巨大な壁のように続く空間が現れる。ピナイサーラの滝つぼに到着だ。流れ落ちる落差55mにも及ぶ滝の存在感は圧巻で、響き渡る滝の音に耳を傾けると、ここまでの道のりの疲れも癒される気がした。是非ここに来たのなら滝つぼで泳ぐことをおススメしたい。そこから滝を見上げればダイナミックさを体全身で感じることができる、まさに特等席だ。

しばし絶景に浸っている間に、ガイドさんは特性の八重山そばを準備してくれていた。この解放的な大自然のなかで、温かい食事の時間が持てるとは全く想像もしていなかった。滝つぼでクールダウンした体に、温かいスープが染み渡っていく。ホッとする瞬間だ。事実その味はお店で食べるものとは一線を画す、大自然というエッセンスが加わった全く別の八重山そばだった。

再びジャングルに戻り今度は滝上へ向かう。道中「通れるのか?」と思うようなロープを使う険しい場所も存在するが、どうやら滝つぼよりも難易度の高いルートのようだ。本当に辿り着くのだろうかと疑い始めた矢先、トレッキングの疲れが一気に吹き飛ぶほどの眺望が目の前に現れた。滝つぼへ真っすぐに落ちる崖の向こうには、カヌーで通ったヒナイ川や青い東シナ海、そして鳩間島までが一望できる大絶景。これまでの苦労が報われたような達成感と、何ものにも変えがたい感動を得ることができるだろう。

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干潮時にはマングローブの根が
よく見える。 -
巨大なゼンマイのように丸まった、
ヒカゲヘゴの新芽。
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ヒナイ川は淡水と海水が混在し、
たくさんの魚たちが泳ぐ。 -
滝上にも虫やエビなど
小さな生き物が生息している。
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地中に根を張らない木々の間を
トレッキング。 -
本土ではみられないキノボリトカゲも
姿を見せてくれた。