

泥湯が湧き出る台南の秘湯

まず、片倉さんが紹介してくれたのが南部の台南郊外にある「関子嶺(かんしれい)温泉」。日本人駐在員からも「台南でゆったりするならここ!」と人気を集める温泉は、世界でも珍しい泉質が自慢なのだとか。
「関子嶺温泉は台北から『高鉄』にゆられて約80分の『高鉄嘉義駅』で下車。そこから車で40分ほど進んだ山間部にある、秘湯のような雰囲気の温泉です」(片倉さん、以下同)


日本と同様、鉄道網が発達している台湾では、長距離の移動は高速鉄道、通称「高鉄」がおすすめ。台北からなら中心地にある台北駅を起点にコンスタントに運行されているので、まずはそこから南を目指しましょう!
「一番の特徴は灰褐色の『泥湯』。粒子がきめ細かくサラサラとした肌触りなので、ドロドロした日本の泥湯をイメージされて行くと驚かれるかもしれません。旅館や街中では泥湯を粉末状に乾燥させた『温泉粉』が売られていて、顔や体にパックしながら温泉につかれば、お肌がよりツルツルになると評判なんです」

昔ながらの温泉旅館が密集している渓流沿いのエリアから車で5~10分ほど離れた山中には、10年ほど前から高級温泉リゾートも進出し始めているそう。
「なかでも、もっとも高級といわれているのが『儷景(れいけい)温泉会館』です。この温泉旅館の魅力は客室に広々とした部屋風呂がついているところ。湯船は湧き水を使った冷泉と泥湯の温泉の二つがあって、のんびりするにはもってこいです。豪華な客室は平日割引でも一室15,000円弱くらいからと、台湾にしては高いものの、ひと部屋単位の料金設定ですから、友人や家族と泊まればお得だと思います」

関子嶺温泉随一の高級ホテル「儷景温泉会館」。
嘉義駅から季節によってはバスも運行していますが、タクシーでの移動がスムーズです
また、こちらの温泉では野趣あふれるご当地グルメも楽しめるといいます。
「名物は『桶仔鶏(トンザイジー)』と呼ばれる地鶏の丸焼き。ビニール手袋を使って豪快にむしりながら食べるんですが、ドラム缶の中で1時間ほどかけてじっくりと焼き上げているので、皮はパリパリでお肉はやわらかくジューシー。桶仔鶏を扱う食堂は何軒かありますから、散策にもぴったりだと思います。また、山菜の炒め物もおいしいですよ」

最南端の常夏エリアで温泉を満喫

次に紹介していただいたのが「四重渓(しじゅうけい)温泉」。こちらは関子嶺温泉からさらに南、台湾最南端の屏東(へいとう)県にある、まさに最深温泉スポットです。
「最寄りの鉄道駅は高鉄の終点『左営(さえい)駅』(台北駅から2時間弱)で、そこからローカルバスと、タクシーかホテルの送迎バスを乗り継いで2時間ほどかかります。アクセスが不便なため、短期の観光客はあまり見かけませんが、台湾好きのリピーターの方には人気の温泉地ですね」
泉質は少しぬめりのある無色無臭の炭酸泉。血行を促進する効果があるため、お肌のトラブル予防も期待できそうです。
「こちらのエリアで有名なのが、日本統治時代から続いている『清泉(せいせん)温泉会館』です。約百年前に山口さんという方が建てた『山口旅館』が前身の温泉旅館で、昭和5年には高松宮宣仁親王が新婚旅行で訪れ、温泉を楽しんだことでも知られています。そのとき使用された湯船にはいまでもお湯がはられていて、実際に入れないものの見学もできるんですよ」

「四重渓温泉にも温泉グルメがあり、特に骨付きのヤギ肉を薬膳スープで煮込んだ鍋がおすすめ。『四重渓に来たならこの鍋!』といわれるほどの名物料理です。台北のような北部は、冬場は肌寒く、雨も多く降るのですが、屏東県は冬でも20℃ほどあり、雨もあまり降りません。南国風情を感じながら、のんびり過ごすにはぴったりだと思います」
子宝にも恵まれる東部の「黄金の湯」とは!?

自然豊かな台湾の東側、花蓮県にも注目の温泉があるといいます。
「花蓮(かれん)県の南部にある瑞穂(みずほ)温泉と呼ばれる温泉です。ここは台湾で唯一、日本の有馬温泉と同じ鉄分を含んだ泉質を持ち、現地では『黄金の湯』と呼ばれ、子宝、特に男の子に恵まれるといわれているんです」
アクセスは、台北駅から出ている普悠瑪号や太魯閣号、自強号といった特急列車で最寄りの「瑞穂駅」まで約3時間。そこからはタクシーで15分ほど。
「湯上がりにからだを拭くとタオルが黄金色になるほど鉄分が高く、からだを芯から温め、お肌もつるつるにしてくれる温泉で、日本統治時代に警察官の保養地として栄えました。ここを訪れたらぜひ行ってほしいのが『瑞穂温泉山荘』。古くは『滴翠閣』と呼ばれ、瑞穂温泉で一番歴史のある温泉旅館です」


約100年の歴史を誇る「瑞穂温泉山荘」。個室は昔ながらの和室で、露天風呂や個室風呂も完備。
トイレや洗面所は共同と、高級温泉ホテルのような設備こそないものの、きちんと清掃も行き届いているそう
「一人2,000円弱と格安な宿泊料で良質な温泉が楽しめます。雰囲気としては日本の湯治宿に近いかもしれませんね。このエリアには新しい温泉リゾートも進出し始めていますが、瑞穂温泉山荘は長い歴史を感じる木造の造りや、鬱蒼とした緑に囲まれた高台にひっそりとあり、朝になると霧がかった美しく幻想的な山々を眺められるのも魅力です」
瑞穂温泉から少し足を伸ばせば、“湯巡り”も気軽に楽しめるのだとか。

「瑞穂温泉と同様、警察官の保養地だった紅葉温泉や安通温泉という温泉旅館が周囲に点在し、大自然を満喫しながら、さまざまな泉質の温泉が楽しめます。タクシーで気軽に移動できるので、温泉好きの台湾人も湯巡りを楽しんでいますよ」
初めての台湾でこうした温泉を巡る機会はなかなかないかもしれませんが、もっと台湾を深く知りたいという方は、ぜひ地元の方々と温泉巡りに挑戦してみてはいかがでしょう。
なお、台湾の温泉は日本と違い、水着着用でシャワーキャップか水泳帽をかぶるのがマナー。もちろん個室では裸になってゆっくりつかれますから、台湾式、日本式の温泉を心ゆくまで楽しんでください!