
古いものと新しいものが調和する丹波篠山
丹波篠山は、伊丹空港または神戸空港から車で約1時間と、京阪神からもほど近い距離にあります。そこは、河原町妻入商家群※や武家屋敷群などの伝統的な建造物が残る一方で、古民家や空き家をリノベーションした高感度なレストランやカフェ、ショップが点在するエリア。新旧が調和するこの地で、今は離れて暮らす親子3人が久しぶりに再会しました。着いた頃にはお昼を回っていたので、さっそくランチをいただくことに。
- 篠山城築城後の1620年につくられた古い町並みで、約600mにわたり「妻入」という建築様式の商家が軒を連ねている。「妻入」とは、建築の妻側(妻側:建物の棟(むね)に対して直角な側面のこと)に玄関がある構造のこと。このエリアは、国の伝統的建造物群保存地区に指定されている。
【1日目】「トラットリア アル ラグー」で“イタリアのマンマの味”を堪能する


イタリアンレストラン「トラットリア アル ラグー」がある篠山東部・福住エリアは、江戸時代に宿場町として栄えた場所。伝統的建造物群保存地区にも選定されており、古き良き日本の町並みが楽しめます。今回訪れたこちらのお店も、築150余年の古民家を改装したのだそう。中に入ると外装の和の佇まいからは想像できない洋風の造り。薪ストーブやテラコッタのタイルがおしゃれです!

イワシの白ワイン・ヴィネガーのマリネ(右下)、万願寺シシトウとトマトの煮込み(左下)、パンツァネッラ(中央)
まずいただいたのは、前菜の「アンティパスト・ミスト」。万願寺シシトウとトマトの煮込み料理やシチリアの郷土料理カポナータ、ナポリの家庭料理ガット・ディ・パターテなど、5種類の料理がひと皿でいただけます。その彩り豊かな見た目と味のバリエーションに、母と姉も大満足な様子です。
「イタリアの“マンマの味”を再現することにこだわっています」と話すのは、この店のオーナーである兼井昌二シェフ。日本で食べることができるイタリアンは、色味や食感を意識しすぎて本場のものとはかけ離れている料理が多いといいます。兼井シェフは、「アル ラグー=煮込み」の名のとおり、色味を気にせずくたくたになるまで煮込むなど、イタリア料理の原点であるという家庭料理や郷土料理の再現をめざす“イタリア版おふくろの味”を提供しているのだそうです。

母が頼んだメイン料理はこちら。モチモチのタリアテッレにお肉の食感も強く感じられるミートソースがうまく絡み合い、異国情緒溢れる味わいに。パンとドルチェの担当であるという兼井シェフの奥さんお手製のパンも一緒にいただけます。
季節や仕入れ状況によって変わるメニューも気になるところ。イタリア版おふくろの味は、今までに味わったことがないタイプのイタリアンで新鮮でした。ひとり暮らしではあまり食べない煮込み料理、おいしかったです。
- トラットリア アル ラグー
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住所:兵庫県篠山市福住384
TEL:079-506-3070
営業時間:ランチ12:00〜15:00、カフェ12:00〜18:00
定休日:月曜、火曜(祝日の場合は営業)
URL:https://trattoria-al-ragu.jimdo.com/
元芝居小屋の個性的なカフェでゆったりとスペシャリティコーヒーを

ランチのあとはカフェに行きたい! という姉の要望のもと、5分ほど歩いた場所にあるコーヒースタンド「MAGNUM COFFEE」へ。こちらは昭和初期に建てられた芝居小屋を改装して建てられたお店。大阪・心斎橋にお店を構える「ESPRESSO BAR millpour」のオーナー・古荘利治さんが2018年1月に開業した新店舗です。


コーヒー豆の焙煎場も兼ねているこのお店。オーナーみずからブラジルの農園に行って選んだオーガニックのスペシャリティコーヒー豆を、店内にある直下式焙煎機で焼き上げ、香り豊かなテイストに仕上げています。注文を受けてからブレンドしているというのも特徴で、お客さんの好みに合わせて香りや風味を調整することもできるのだとか。

「僕はもともと、コーヒー嫌いだったんですよ!」と、スペシャリティコーヒー豆との衝撃的な出合いをユーモアたっぷりにお話してくれる古荘さん。食材もとにかくオーガニックにこだわり、安心・安全でおいしいコーヒーと食を追究していると聞き、「We are what we eat(私たちは、私たちが食べているものでつくられている)」というお店のコンセプトにも深くうなずいてしまいました。


冬の時期には大きなストーブが店内を温かく包み込み、夏は爽やかな風を受けるテラス席でのコーヒーブレイクが心地よさそう。この開放感と海外の映画に出てきそうなシックな装いに「こんなカフェが家の近くにもあったらいいのになぁ」と姉も思わず声を漏らしていました。
- MAGNUM COFFEE
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住所:兵庫県篠山市福住317
TEL:080-9471-7894
営業時間:8:00〜18:00
定休日:火曜
URL:http://magnum-millpour.com/#magnum_top
「篠山城跡」で丹波篠山の歴史に触れる

福住エリアから車で約20分、今回の旅の拠点である篠山城下町に到着しました。篠山城は、関ヶ原の合戦に勝利した徳川家康が、大坂の陣の前に西日本の拠点として築いたお城。明治維新となり廃城令後も藩の公式行事などに使用されていた大書院だけが、城建物のなかではただひとつ残されました。1944年に火災により焼失しましたが、その後2000年3月に復元再建されています。
大書院は、木造住宅建築としては日本でも例を見ないほど大きな規模を誇ります。内部では、狩野派絵師による屏風絵や篠山城築城に関する映像資料などを鑑賞し、往時の趣を感じることができました。

- 篠山城大書院
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住所:兵庫県篠山市北新町2-3(史跡篠山城跡二の丸内)
TEL:079-552-4500
営業時間:9:00〜17:00(受付終了16:30)
定休日:月曜日(祝祭日の場合は開館、翌日休館)、年末年始(12月25日〜翌年1月1日)
URL:http://www.withsasayama.jp/REKIBUN/osyoin_top.htm
まるで宝探し! 「器とくらしの道具 ハクトヤ」で自分好みの逸品に出合う

篠山城跡の歴史に触れたあとは城下町の散策へ。国の重要伝統的建造物群保存地区に認定されている篠山城下町。そのなかでも「河原町妻入商家群」という商店街には、古民家を利用した食事処やお土産屋さんが立ち並んでいます。「器とくらしの道具 ハクトヤ」の前まで来ると、姉は「外から見てもかわいい!」と言ってさっそくお店に入っていきました。

これでも店内のスペースのほんの一部なんです
外観ですら驚いてしまう商品の多さですが、一歩店内に入ってみると、それはもう、たくさんの雑貨や小物が待ち構えていました。親子3人で声を揃えて唸ってしまうほどに多種多様…。

店内をあちこち見て回っているとオーナーの一瀬さんが商品の説明をしてくださり、理解と興味が深まってきました。ここにある商品のほとんどは、一瀬さんが直接足を運んで買い付けてきたものなのだそう。国内なら北は東北、南は沖縄まで、全国津々浦々の陶磁器や木製の日用品、ヨーロッパや東南アジアで仕入れてきた小物も豊富に並べられています。毎年1月末から2月末頃にお店を閉めて買い付けの旅に出ており、今年はベトナムやスウェーデン、ドイツ、チェコなどをまわってきたといいます。

店内を奥へ進むと、なんと庭にもたくさんの雑貨品が!ここでは「沖縄に射す陽の光と暖かさを疑似体験しながら商品を見てほしい」と、一瀬さんが沖縄で買い付けてきた商品が集まっています。

時には、地元の小学生の子どもがお小遣いを握りしめてやってきたり、学校帰りの男子高校生がふらりと訪れたりすることもあるそう。その目的の多くは“大切な人”へのプレゼント選び。もちろん、自分にぴったり合うものを探すのも楽しいですが、たくさんある小物や雑貨のなかからある人を想って商品を選んでみるのもいいですね。
- 器とくらしの道具 ハクトヤ
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住所:兵庫県篠山市河原町121-1
TEL:079-552-7522
営業時間:11:00~18:00
定休日:木曜(祝日の場合は営業)
URL:https://hakutoya.exblog.jp/
クラシック音楽でお酒の味が変わる? 「ほろ酔い城下蔵」で丹波杜氏の酒造を見学
丹波篠山は、南部杜氏(岩手県)、越後杜氏(新潟県)と共に日本三大杜氏の一つに数えられる「丹波杜氏」を有することでも知られています。そんな丹波杜氏の伝統や日本酒の昔ながらの製造方法を見学できるのが、「ほろ酔い城下蔵」。清酒「鳳鳴」醸造元の鳳鳴酒造が、築200余年の本社蔵と蔵元の邸宅を改装、整備して酒造見学ができるようにと訪れる人に公開しています。


酒造見学の最後には、鳳鳴酒造でつくられたお酒がズラリと並べられた棚が。なかでも興味を引かれたのが、音楽を聴かせて醸造されたという日本酒「夢の扉」。トランスデューサーという、音を振動に変換する装置を用いて醸造することによって、きめが細かく口あたりがマイルドなお酒に仕上がるのだそう。「夢の扉」には、ベートーベン交響曲第6番「田園」を聴かせた「本醸造」、モーツァルト交響曲第40番を聴かせた「純米吟醸」、丹波篠山の民謡・デカンショ節を聴かせた「普通酒」の3種類がありました。

見学後には鳳鳴酒造のほとんどのお酒が無料で試飲できるということで、3人それぞれに気になるものを選んで、飲んでみました。私はベートーベンを聴かせた「夢の扉 本醸造」を、母は丹波黒大豆から生まれたワイン風リキュール「楼蘭」、姉は日本酒仕込みの「梅酒」をチョイス。どれもさらっと飲めてしまう口あたりのよさで、ほろ酔いの状態で酒蔵を後にすることに。今日は来られなかった父親のために、モーツァルトを聴かせた「夢の扉 純米吟醸」をお土産に購入しました。
- 鳳鳴酒造ほろ酔い城下蔵
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住所:兵庫県篠山市呉服町46
TEL:079-552-6338
営業時間:9:30~17:00
定休日:火曜日
URL:http://houmei.wixsite.com/houmeisyuzou/
- 有料の試飲セットもあります
いよいよ「篠山城下町ホテルNIPPONIA」へチェックイン!

まだまだ城下町を散策したいところですが、日も暮れてきたのでいよいよホテル「篠山城下町ホテルNIPPONIA」へチェックイン。古い町並みとうまく調和した外観から伝わってくる風情に3人で心を踊らせます。城下町を散策してきた今なら、「町全体をホテルとして楽しむ」というコンセプトの意味が少しずつわかってきました。
「篠山城下町ホテルNIPPONIA」は城下町全体をゆるやかにホテルの敷地として捉えており、篠山城跡を取り囲むように点在する7つの宿泊棟で形成されています。宿泊棟は築100年を超える江戸後期建造のものから昭和のものまで、歴史的に価値の高い建物が中心となっており、ONAE、SAWASIRO、NOZI、SIONなど、各々に菊の花の名前が冠されているそうです。

まずは、フロントとレストランのあるメイン棟・ONAEでチェックイン手続きをしました。ONAE棟は、明治前期に建築された元銀行経営者の居住を改装してつくられた建物。内部もまた情緒たっぷりで、高い天井から差し込む光と柔らかなダウンライトが、温かい雰囲気で迎え入れてくれます。

入ってすぐの土間には、当時の日々の営みを感じ取ることができるカマドや井戸がほとんどそのまま残っています。見上げると天井も煤けていて、かつてこの場所で煮炊きを行っていたことがわかりました。

宿泊するのは、歩いて1,2分の距離にあるSAWASIRO棟のメゾネット形式のお部屋。檜が香る最新式のお風呂やトイレといった水回りがある1階から階段を上ると、趣深い部屋が現れます。創建当時からある梁など古民家の風情は残しながら、ベッドを含め室内はきれいに整えられており、古さと新しさが溶け合っている空間。「落ち着く部屋だね」と母が言う一方で、ちょっと異世界に迷い込んだような、非日常の感覚も呼び起こされるお部屋でした。



「篠山城下町ホテルNIPPONIA」には、日帰りでも利用できるレストランがあり、そこでランチやディナーをいただくことができます。地産地消食材を使ったフレンチのディナーが付いた宿泊プランなどもあるので、用途に合わせて選んでみるといいですね。
私たちは、夕食で丹波篠山の名産料理「ぼたん鍋」を食べようということで、朝食のみが付いたシンプルなプランを選択しました。お部屋でひと段落したらいい具合におなかがすいてきたので、夕食の場所へと向かいます。
- 篠山城下町ホテルNIPPONIA(フロント:ONAE棟)
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住所:兵庫県篠山市西町25
TEL:0120-210-289(NIPPONIA総合窓口)
URL:https://www.sasayamastay.jp/
夕食はぼたん鍋の専門店で、丹波篠山名産の猪肉をいただきます

夕食は、ホテルから車で10分ほどの料理屋「奥栄」へぼたん鍋を食べに行きました。ぼたん鍋は、薄切りにした猪肉を牡丹の花のように盛り付けることから名付けられた鍋料理。その人気店であるここ「奥栄」の猪肉はすべて、篠山市の猟友会がハンティングしたものを使っており、野菜も含めて地産地消にこだわっています。小さい頃に食べた猪肉の味が忘れられない私のたっての希望で訪れたこのお店。一方で姉は「猪って臭いんじゃないの?」と懐疑的でしたが…。

「猪肉は煮込めば煮込むほど柔らかくなって、脂身も甘くておいしいんやで」と女将さん。煮込んでもお肉が固くなることはないので、野菜と一緒に投入しても問題ないとのこと。姉と母もよく煮込まれた猪肉を口に運び、やや興奮気味に「おいしい…!」と幸せそうなリアクション。私も、くさみがなくやわらかくて甘いぼたん鍋をほおばりながら、「近い将来、また食べに来よう」と心に誓いました。

- 奥栄
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住所:兵庫県篠山市藤岡奥西山ノ坪492−5
TEL:079-552-4441
営業時間:11:00〜21:00(19:00L.O.)
定休日:不定休
URL:http://www.okuei.com/
家族団らんで夕食を食べるのも久しぶりで家族の会話が弾みました!
1日目はこれで終わり。ホテルへ戻ってリラックスしたひとときを過ごします。