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    掲載日:2020.06.11

    今こそ旅のイメトレ! 旅作家に聞く「旅に出るきっかけになった本」

    旅好きの皆さんは、旅に出られないこの時期をどのように過ごしていますか? 今こそ、改めて旅について考えてみるのもいいでしょう。そこで今回は、旅に関する著書や写真集があるクリエイターの皆さんに、「旅に出るきっかけになった本」について聞いてみました。次の旅がより豊かになるように、本を読みながら、旅のイメトレをしてみては?

    『何でも見てやろう』小田実(河出書房新社)

    by 旅行作家・下川裕治さん

    旅行作家・下川裕治さんが高校時代に購入した『何でも見てやろう』の単行本
    旅行作家・下川裕治さんが高校時代に購入した『何でも見てやろう』の単行本

    次の旅をイメージしながら家で過ごす時間が続いています。こんなときこそ、旅の魅力をじっくり見つめ直すチャンスかもしれません。そこで今回、編集部が考えたのが、おすすめの旅本を紹介する企画。旅作家や写真家の皆さんに、「旅に出るきっかけになった本」を紹介してもらいました。

    まず、格安バックパッカー旅の先駆者として知られる旅行作家・下川裕治さんが紹介してくれたのは、小田実(まこと)さんの『何でも見てやろう』。1961年に初版が発行され、大ブームとなった世界22カ国の放浪記です。東京大学文学部卒業後、1958年にフルブライト奨学金でハーバード大学に留学した著者は、日本に帰国する際、ヨーロッパ経由で1日1ドルのユースホステルなどに泊まりながら所持金200ドルの大陸横断旅に出ます。沢木耕太郎さんが『深夜特急』で旅したのが1980年代なので、舞台はさらに20年以上前の世界。『何でも見てやろう』は、まさにバックパッカーの走りとなる体験記といえます。

    「おそらく高校生のときに、実家がある長野県の古本屋で買ったと思うんですよね。旅行記なんだけど、小田さんて理屈っぽいんですよ。すぐ政治の話とか始まっちゃうわけ。だから正直、内容はそんなに覚えてない(笑)。僕はむしろ『青年は荒野をめざす』(五木寛之著/1967年刊)とかの世界観に影響を受けて、シベリア鉄道の旅とかに憧れてたんだけど、旅に出るきっかけということで改めて聞かれるとやっぱり『何でも見てやろう』なんですよね。放浪の旅をして、それを体験記として書くという仕事があるんだと教えてくれた本です」

    大学時代からアジアを旅していた下川さんは、卒業後、産経新聞記者を経て、フリーになります。そして、バブル全盛の1988~1989年にかけて、予算12万円で世界を歩く赤貧旅行記を雑誌で連載。単行本『12万円で世界を歩く』がベストセラーとなり、脚光を浴びます。大手新聞社を3年で辞め、放浪の旅に出るときに、背中を押されたのは、『何でも見てやろう』のこんな一節でした。

    「二年間ひとりで、日本の外をぶらぶらしていていちばんよかったことは何か、と訊かれるたびに、私は、それは日本が地図にあるあの弓なりの列島のかたちで見えたことだ、と答えた。」
    (『何でも見てやろう』初版単行本 345ページより引用)

    「『何でも見てやろう』は、自分探し的な旅情もなければ、旅のテクニックなんかもまったく書いていない。僕はただ、これを読んで、日本を遠くから眺めるために世界を回らないといけないって思ったんですよね。それは社会人になったときも心のどこかに残ってたわけです」

    「このときの小田さんて、ものすごい熱量の好奇心でいろいろな世界に飛び込んでいくんです。政治とか社会問題にも関心があるから、なんで?どうして?って、現地で会った人ととことん議論をしたりして。今の手軽な海外旅行から抜け落ちてしまった“世界を見る熱量”みたいなものをここから感じてもらいたいですね」

    下川裕治
    下川裕治

    1954年、長野県生まれ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。
    『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)など、アジアと沖縄に関する著書多数。近著に『一両列車のゆるり旅』(双葉文庫)、『週末ちょっとディープなベトナム旅』(朝日文庫)、『12万円で世界を歩くリターンズ タイ・北極圏・長江・サハリン編』(朝日文庫)などがある。  

    『12万円で世界を歩くリターンズ タイ・北極圏・長江・サハリン編』(朝日文庫)
    【こちらもおすすめ!】『12万円で世界を歩くリターンズ タイ・北極圏・長江・サハリン編』(朝日文庫)

    1990年発行の自身のベストセラー『12万円で世界を歩く』のルートに再び挑戦。あれから30年、旅は、世界は、どう変わったか。自身の原点を見つめる旅行記。

    『何でも見てやろう』小田実(講談社文庫)

    by 旅行作家・歩りえこさん

    講談社文庫版の『何でも見てやろう』。歩りえこさんの旅のルーツもこちら
    講談社文庫版の『何でも見てやろう』。歩りえこさんの旅のルーツもこちら

    続いて登場いただいたのは、水原希子さん出演でドラマ化された『ブラを捨て旅に出よう~水原希子の世界一周ひとり旅~』(Huluで配信中)の原作者、歩りえこさん。20代の頃、5大陸・世界94カ国を旅した歩さんの旅の原点も、なんと小田実さんの『何でも見てやろう』でした。

    「『何でも見てやろう』との出合いは、大学生だった21歳くらいの頃かと思います。新宿の本屋の紀行本コーナーで見つけて手に取り、面白そうだなと即購入しました。実は、この本の影響でアメリカ・ニューヨークに旅立ち、その旅がその後、94カ国を周るきっかけになりました」

    短大時代に所属していたチアリーディング部の全国優勝をきっかけに訪れたアメリカ・フロリダ州で「ノーブラで闊歩する女性の自由な姿」に感銘を受けて、「固定概念を捨ててもっと自由に生きよう」と決意したという歩さん。そのポジティブなメッセージは、現代社会に生きづらさを感じている多くの女性を勇気づけています。自分を見つめ直す時間が多いこの時期、歩さんの原作本もぜひ読んでみてください。

    歩りえこ
    歩りえこ

    1981年、東京都生まれ。これまで一人旅した国は南極を除く、5大陸・世界94カ国。豊富な旅の経験から、旅作家、旅コメンテーターとして「固定概念を捨ててもっと自由に生きよう」をテーマに、何かをしたいけどなかなか一歩を踏み出せない人への「講演会」を主にメディアやイベントに出演。旅行記『ブラを捨て旅に出よう 貧乏乙女の“世界一周”旅行記』(講談社文庫)は4万5千部を超えるベストセラーに。  

    『ブラを捨て旅に出よう 貧乏乙女の“世界一周”旅行記』(講談社文庫)
    【こちらもおすすめ!】『ブラを捨て旅に出よう 貧乏乙女の“世界一周”旅行記』(講談社文庫)

    2年間で5大陸90カ国を女ひとりで旅した抱腹絶倒の記録。費用はたったの150万円という想像を絶する貧乏旅行。暴漢に襲われたり、荷物を盗まれたり、ストーキングされたり、トラブルだらけの旅の中で、著者が出会った人情と笑いとロマンスとは!?

    『メメント・モリ』藤原新也(朝日新聞出版)

    by 旅行作家・小林希さん

    「学生のうちに必ずインドに行こう」と小林さんを決意させた『メメント・モリ』
    「学生のうちに必ずインドに行こう」と小林さんを決意させた『メメント・モリ』

    2014年に『恋する旅女、世界をゆく――29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家デビューした小林希さん。編集者の経験を活かして、現在も旅先での体験を綴った書籍やフォトブックなどを出版しています。

    そんな小林さんが、世界放浪の旅をするようになったのは大学生の頃。写真部に所属し、フィルムの一眼レフカメラを持って、世界のあちこちを旅していたといいます。卒業旅行で訪れたのは、ガンジス川の沐浴風景が有名なインドのバラナシ。きっかけは、藤原新也さんの作品『メメント・モリ』でした。

    「高校生の頃からバックパッカーに憧れていて、いつかはインドに行きたいと思っていました。藤原新也さんの『メメント・モリ』を手にしたのは大学生になる前です。写真に写った生と死の対比が衝撃的で、学生のうちに必ずインドに行こうと決意しました」

    世界各地を旅した記録を写真と文章で表現してきた藤原新也さん。『メメント・モリ』(ラテン語で「死を想え」)には、「本当の死が見えないと、本当の生も生きられない。」というメッセージが込められています。小林さんが衝撃を受けたのは、ガンジス川のほとりの火葬場で焼かれた死体が犬に食べられている写真。そこには、「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ。」という一文が添えられていました。

    「卒業旅行で(インドの)バラナシを訪れたとき、藤原さんが見た1980年代の光景はありませんでした。でも、変わらずガンジス川のほとりで人が焼かれ、家族が泣いていました。焼かれた遺体は、ガンジス川に流され、いずれ大地に還る。これは、つまり新しい始まり……そんな風景が日常の中にある場所で、死を思うことで、はじめてどう生きるべきか考えられるんだと気づかされました」

    小林さんがここで得たメッセージは、「一度きりの人生、やりたいことがあるなら、絶対にやるべき」というもの。2011年に、長年勤めた出版社を辞め、世界放浪のひとり旅に出るとき、背中を押してくれたのはこのときの経験だったといいます。

    「藤原新也さんの著作を読んでいると、その場で降ってきた言葉をあつめて作品にしているのではないかと思うんです。それは、現場に行かないと絶対に出会えないもので、こういう表現であり、生き方に憧れて、私も作家をめざしたんだと改めて思います」

    旅好きの多くの人と同様、取材の旅に出られない日々を送る小林さん。そんな今だからこそ、次の旅をより楽しむために自分をレベルアップする時間に充てているといいます。

    「もっともっと旅を楽しめる自分になる! というのを目標にして、最近はオンライン英会話で語学力アップに取り組んでいます。また、時間がないことを言い訳にして、なかなか読めていなかった海外のさまざまな土地や文化に関する本を読んで、知識を深めています。アフターコロナの時代は、より深い旅ができるようにしたいですね!」

    小林希
    小林希

    1982年、東京都生まれ。旅、島、猫を愛する旅作家。元編集者。Officeひるねこ代表。在学中写真部に所属。2005年サイバーエージェントに入社、出版部門に配属。2011年末に出版社を退社し、世界放浪の旅へ。1年後帰国して、『恋する旅女、世界をゆく――29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマに執筆活動・写真活動をしている。旅に関する著書多数。現在、(一社)日本旅客船協会の船旅アンバサダーに就任。  

    『今こそもっと自由に、気軽に行きたい 海外テーマ旅』(幻冬舎)
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    近年人気急上昇のウラジオストクやウズベキスタン、安定の人気を誇る台湾やタイ、憧れのメキシコやキューバ、バルト三国など、「テーマ」で旅した13カ国をご紹介。「雑貨をめぐるバス旅」や「砂漠の町で工芸品に出会う旅」「オーガニックをめぐる旅」など、やりたいことを決めれば旅はもっと楽しくなります! なかなか旅に出られない今だからこそ、おうちで旅気分を味わってみませんか?

    『名探偵カッレ 城跡の謎』 アストリッド・リンドグレーン(岩波書店)

    by 写真家・石川直樹さん

    写真家・石川直樹さんの旅のルーツとなった『名探偵カッレ 城跡の謎』 photo by Naoki Ishikawa
    写真家・石川直樹さんの旅のルーツとなった『名探偵カッレ 城跡の謎』
    photo by Naoki Ishikawa

    最後に登場いただくのは、世界各地を旅しながら、人類学や民俗学の視点を取り入れた作品を発表している石川直樹さん。

    石川さんといえば、2001年に23歳にして世界七大陸の最高峰登頂を世界最年少で達成したことで知られています。さらに、その前年には、Pole to Poleプロジェクトに参加し、北極から南極まで人力による踏破も達成。その後も世界中の都市や辺境を探訪している旅のエキスパートです。

    そんな石川さんが選んでくれたのは、スウェーデンの児童文学作家アストリッド・リンドグレーンの『名探偵カッレ 城跡の謎』です。今回は、石川さんが出合いのエピソードをeメールで送ってくれました。

    この本は、小学生のときに祖父に買ってもらいました。電車の中で読んでいて、降りる駅を忘れてしまうくらい面白かった。以来、「長靴下のピッピ」「やかまし村の子どもたち」などなど、リンドグレーンの本が大好きになり、本の中に登場する好奇心の塊のような子どもたちと同じようにあちこち出歩いて、探検や冒険に思いを馳せるようになっていきました。

    この本はぼくのすべての旅の原点になるような本で、中学2年生のときに行った初めての一人旅や、高校2年生のときに行ったインド・ネパールひとり旅へとつながっていきます。

    さらに大人になってからは、リンドグレーンの故国を訪ねてみたいと思い、スウェーデンのストックホルムに小さな部屋を借りて長逗留したこともあります。『名探偵カッレ』のなかに、「夏のさかりに、夜中まで薄明るい白夜なのに」という一文があって、子ども心に夜中まで明るい?と不思議に思っていたのですが、その後、ストックホルムやアラスカの夏を実際に体験し、白夜の季節、人々の高揚した空気感を実際に知ることになって、ああこれか、と思ったのでした。

    リンドグレーンの作品は、いま岩波書店から新装版が発売されています。それを読み返して、子どもの頃の読書の楽しさを、あらためて思い出しました。

    小学生のときの読書体験が、その後の旅につながっていくこともあるんですね。石川さんの写真集と一緒に、この本を読んでみるのも面白そうです。

    石川直樹
    石川直樹

    1977年、東京都生まれ。都市から、辺境まで縦横に旅をしながら作品を発表。最新刊に写真絵本『アラスカで一番高い山』(福音館書店)、東京オペラシティにて開催された展覧会と同名の大冊『この星の光の地図を写す』(リトルモア)など。  

    『この星の光の地図を写す』(リトルモア)
    【こちらもおすすめ!】『この星の光の地図を写す』(リトルモア)

    10代の頃から今に至るまで、辺境や都市を含む地球上のあらゆる場所を旅した20年以上におよぶ足跡をまとめた大冊。

    4名の旅行作家・写真家の皆さんから、「旅のきっかけになった本」を紹介いただきました。いずれも旅行ガイドとは違う、「より深い旅」へと私たちを誘ってくれる魅力的な本ばかり。この機会にぜひ読んでみてください。

    • 記載の内容は2020年6月現在のもので、変更となることがあります。
    ライター:Kenichi Marumo(minimal)

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