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掲載日:2016.09.08

オーストラリアの食文化を変えた!?伝説の超有名料理人は日本人

世界的に著名な日本人といえば、故・黒澤明や宮崎駿、作家なら村上春樹、最近ではきゃりーぱみゅぱみゅなどでしょうか。ヨーロッパでは北野武、アメリカではイチロー、アジアであればSMAPあたりも思い浮かびます。ところがオーストラリアには、これらのビッグネームを抑えて真っ先に名前が挙がる日本人がいるのです。
ANAオリジナル

その名は「テツヤ」こと和久田哲也さん。22歳で単身オーストラリアへ渡り、飛び込みのアルバイトからキャリアをスタートし、「オーストラリアで最高」とまで称えられるレストラン「Tetsuya’s(テツヤズ)」をつくり上げました。オーストラリア国内はもちろん国際的なレストラン格付けにも数多く登場し、トム・クルーズなどハリウッドのトップスターやブッシュ元米大統領といったセレブリティも特別扱いせず入店を断ったなど、さまざまな逸話も有名。数々の伝説を持つ日本人シェフのレストランをご紹介します。

若いシェフからも敬愛される和久田哲也さん

料理人人生の始まりは皿洗いから

シドニーの大手新聞社によるレストラン格付けで3ツ星に相当する「3シェフズ・ハット」を18年間連続で獲得したり、シェフやレストラン経営者、料理批評家、フードライターといった食の専門家が選出するグルメコンペティション「世界のベストレストラン50」で世界第4位にランクインしたりと、現在ではシェフとしての最高栄誉を欲しいままにしている和久田哲也さんが、アルバイトで貯めた100万円とボストンバッグを手にシドニーにたどり着いたのは、いまから34年前の1982年のこと。静岡県浜松市で生まれ育ったため、子どものころからおいしい魚には恵まれて来ましたが、料理人になろうと考えたことはまったくなかったそうです。

人気メニューのひとつ「スカンピのロースト」

シドニーにやって来たものの英語を話せずお金もなかった和久田さんが、「英語を学べて、まかないも食べられ、家賃も稼げる」と連れてこられたのがレストランでした。現在でこそパリやミラノ、ニューヨークといった世界最先端の美食都市で日本人シェフが活躍し、オーナーシェフとして店を構えることも珍しくありませんが、当時はシェフという職業の社会的地位もいまほど評価されておらず、和食も知られていませんでした。皿洗いのアルバイトとして店に入り、日本人らしい器用さと魚の扱いに慣れている点を買われて厨房へ。その後「オーストラリア料理界の父」といわれるフランス料理人トニー・ビルソンと出会い、彼のもとで修業を積みました。

「スカンピの尾の身にキャビアと卵黄を添えて」

フランス料理に日本の伝統を融合

トニー・ビルソンに師事してフランス料理の技術を習得した和久田さんのメニューは、フランス料理の調理技術を基礎にしています。ところがテツヤズの紹介記事を読むと「日本料理」「懐石料理」といわれることもあれば、「ジャパニーズ・フレンチ」とか「モダン・オーストラリア料理」、はたまた「フュージョン料理」といわれることもあり、定義することができません。なぜなら和久田さんのスタイルは、既存の枠組みとはまったく異なるものだったからです。

「マロン(ザリガニの仲間)のサラダ仕立て 黒トリュフと共に」

テツヤズでは現在も、季節の食材を取り入れ、食材によって皿の内容が変わる10品~13品ほどで構成されたおまかせのコース料理を提供しています。日本人の私たちは、懐石や割烹などおまかせ形式になじんでいますが、当時のオーストラリアでは、客がアラカルトメニューの中から自分の食べたい料理を選び、コックはそれに従って調理するのが一般的でした。アラカルトの各皿はポーションが大きいのが当然で、和久田さんの「美しく盛りつけた少量多皿を提供する」という方法が、どれだけの衝撃を伴って受け止められたか想像に難くありません。なかでもゲストを驚かせたひと皿が、「魚を食べて育った」というバックグラウンドから生み出された名物料理でした。

「本マグロのカルパッチョ ジンジャーフラワーとジンジャードレッシング」

自ら育てた“サシミ・クオリティ”の魚

その料理こそトップ写真の「“ペチュナ”ブランドのオーシャントラウトのコンフィ、フェンネルのサラダ仕立てと低温殺菌をしていないオーシャントラウトの卵を添えて」です。瑞々しくつやつやしたオレンジ色の切り身は、まるで生魚そのままの刺し身のように見えますが、実はフランス料理の技法である低温調理法でゆっくりと時間をかけて中心部まで加熱して、身焼けを一切させずに旨味を最大限に引き出しています。焼いた皮のように見える部分は、塩昆布を細かく刻んで貼り付けたもの。日本料理の見立ての文化です。

魚料理が有名だがフレンチ出身ゆえ肉料理も得意。写真はキジ肉のソテー ©Shifumi Eto

シドニーには、いまでこそオーストラリア最大かつ世界二位(世界一位はもちろん築地市場)の取扱高を記録する魚市場「シドニー・フィッシュマーケット」があり、質のよい魚介が流通し、“サシミ・クオリティ”という魚介の鮮度を示す英語も定着していますが、当時の人々に生の魚を食べさせるなんて。ゲストはどれだけびっくりしたことか、思いを馳せると楽しくなってきます。そのうえ“サシミ・クオリティ”のトラウトを求めた和久田さんは、オーストラリアの魚食文化の向上を目指し、なんと漁師や養殖業者と協力して、タスマニア島で自身が納得するクオリティのトラウトの養殖まで始めたのです。この料理はいまもテツヤズの看板メニューになっています。

五感を満たす居心地のいい空間づくり

日本庭園を望むメインダイニング ©Shifumi Eto

そのほか上質なワサビを栽培するなど、食材のクオリティを追求し、オーストラリアの食文化の発展に大きく寄与した和久田さん。最近のガストロノミー界では、シェフのクリエイティビティが存分に発揮されたアバンギャルドな料理に注目が集まっていますが、テツヤズのコースは新鮮さや驚きを備えつつ、その構成はいたってシンプルで、食材の持ち味をストレートに堪能できる心地よさがあります。

現在の店舗は日本庭園を有する贅沢な一軒家

そう、和久田さんが現在提案しているのは「ゲストが主役の居心地のよい空間」です。たとえば、日本庭園を眺めるダイニングには、過去の華々しい受賞歴を示す表彰状やトロフィーといったものは一切飾ってありません。その理由は「レストランは料理人が主役になる場ではなく、お客様が主役だから」。その代わり、自身を育んだ日本文化を伝えようと、飾り棚には日本の骨董品がさりげなく飾られています。内装は空間を生かして過度にデコレーションせず、そのぶん「レストランでは2時間も3時間も同じ椅子に座っていなければならないから」と、デンマークの家具メーカー「フリッツ・ハンセン」の椅子を特注しました。

サービススタッフのモットーは「すべてのお客様がVIP」

2010年にはシンガポールの総合リゾートホテル「マリーナ・ベイ・サンズ」に日本料理店「WAKU-GHIN(ワクギン)」(2016年度「世界のベストレストラン50」で6位にランクイン)をオープンし、活躍の場を広げていますが「何者でもなかった自分にチャンスを与えてくれたシドニーに、骨を埋めるつもりだ」と和久田さんは言います。

残念ながら日本への出店予定は考えていないとか。シドニーに行かなければ出合えない、オーストラリアの食文化を変えた日本人シェフの味。あなたも味わってみませんか。

Tetsuya’s

住所:529 Kent Street SYDNEY NSW 2000
電話:(61)2 9267 2900
時間:火~金曜日 18:00~
土曜日 12:00~/18:30~
※店が設定した閉店時間でお客様をせかさないように、閉店時間は決まっていません
定休日:日・月曜日、ニューサウスウェールズ州の祝日
E-mail:info@tetsuyas.com
URL:https://www.tetsuyas.com/

ライター:Shifumi Eto

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