
出典 : pixta_39227095
犬のコマンドとは?

トレーニングにおける「コマンド」とは、飼い主さんが「犬にしてほしい行動を起こさせるための合図」という意味になります。
たとえば「すわる」という特定の反応を犬から引き出すため、「おすわり」という言葉やハンドサインを用いた特定の刺激に結びつけます。
ちなみに日本では一般的に「コマンド」といっていますが、海外では「キュー」といいます。
それは、コマンドという言葉は上下関係における命令の意味合いが強いからかもしれません。
キューは「ある特定の行動を起こさせる合図や信号、キッカケ」という意味で使われています。
犬のコマンドの種類は?

飼い主さんの多くが言葉によって犬への指示を出すため、言葉によるものを「コマンド」と表現する場合がほとんどですが、体の動きを使ったハンドサインもコマンドのひとつです。
反応を引き出すための合図になるものであれば、聴覚、視覚、嗅覚、どのような刺激でもコマンドとして使えます。
言葉、ハンドサイン、言葉以外の音、におい、飼い主さんが犬にどのような刺激を合図として用いて反応してもらいたいか、その目的に応じてコマンドとして用いる刺激は変わってきます。
このような、ある刺激と行動が結びつく学習のことを連合学習(れんごうがくしゅう)といいます。
なお、以前によく使われていた訓練用語ではハンドサインのことを指符(しふ)、言葉による指示のことを声符(せいふ)といいます。
犬のコマンド、トレーニングの仕方

コマンドによるトレーニングは、専門家に限らず誰でも行なうことができます。
アメリカの心理学者ジョン・ピリー博士の飼っていたボーダーコリーのチェイサーは、世界一賢い犬として、1022個の単語を覚えることに成功しました。(*1)
チェイサーほどではなくても、一般的な犬でもおよそ250個の単語は覚えられると言われていて、これは人間の子供の2~3歳児ぐらいの能力といわれています。
コマンドトレーニングの基本を理解し、正しく教えてあげればどんな犬でも多くの言葉を覚えることができ、飼い主さんとのコミュニケーションも広がります。
是非、皆さんもチャレンジしてみてください!
参考資料 *1
John W.Pilley, et al., 2010
ほめるしつけ「陽性強化」
犬がある行動をしたときにうれしいことが起きると(ごほうびがもらえるなど)、同じ状況の下で同じ行動を起こす頻度が増えます。
たとえば、おすわりをするとおやつがもらえる(いいことがあった)と、おすわりをする行動が増えます。
これを「オペラント条件付け」の「正の強化」といいます。
正の強化を中心に行なうしつけやトレーニングのことをほめるしつけといい、「陽性強化法」ともいいます。
ちなみに、ある行動の結果、その行動が増えることを「強化」といいますが、楽しいことやうれしいことがあって行動が増えることを「陽性強化」、嫌なことや不快なことから逃れるための行動が増えることを「陰性強化」といいます。
以前の犬のトレーニングでは、上下関係を築くという目的のため、主に力や体罰によって犬を制圧し、言うことをきいたら開放してあげる、いわゆる陰性強化法が主に用いられてきました。
しかし、犬の特性や問題行動に関する研究が進展したことで、「家畜化された犬は人に対して序列関係を求めない」、「問題行動が生じる原因は上下関係ではない」、「力や体罰によって犬を制圧するしつけ方は、問題を更に悪化し、犬の福祉が損なわれる」などといった様々な研究結果が報告され、従来の「人と犬の関係=上下関係」という考え方が見直されるようになりました。
そのため、現在では犬の福祉を保つためにも、褒めることを中心とした陽性強化法を中心にトレーニングをすることが主流となりました。
特定の行動を理解させる
トレーニングをしようと思っても、犬が飼い主さんの望む行動をしなければご褒美を与える機会は作れません。
結果的に、行動の頻度を高めることもできません。
そこで、犬に教えたい行動を作り出す作業が必要になります。
この行動を作り出す作業のことを、専門的に「反応形成」といいます。
反応形成にはいろいろな方法がありますが、一般の家庭でも比較的簡単に行なえるものとして、おやつを使って誘導する方法があります。
おやつで誘導する
「おすわり」の場合を例にして説明しましょう。
最初のステップとして、おやつを手のひらに持ち、犬の鼻先からゆっくりと頭の上へ動かしていきます。
犬が飼い主さんの手を鼻先で追いかけると、自然におすわりの状態になります。
お尻が床についておすわりの状態になった瞬間に、ほめて、ご褒美をあげましょう。
このように、犬が飼い主さんの望む行動をしたとき、ほめながらご褒美を与え、誘導によって目的の行動を教えていきます。
ハンドサイン
おやつによる誘導ができるようになったら、次に、おやつを持たずに手の動きだけで反応できるように練習しましょう。
手の動きだけでできるようになってから、言葉を加えていきます。
行動と言葉を結びつける学習は難しく高度なものなので、まずは、視覚的に分かりやすい手の動きによって成功できるようにします。
手の動きだけでコマンドが成功すれば、ハンドサインが学習できていることになります。
飼い主さんがハンドサインでの合図を望むのであれば、ここでトレーニングはゴールとなります。
行動と言葉を結びつける
言葉によるコマンドを教えるには、ハンドサインの学習の後、言葉と結びつける作業が必要になります。
まず、教えたい言葉を口に出してからハンドサインを出し、成功したらご褒美をあげましょう。
言葉のコマンド→ハンドサイン→教えたい行動(おすわりなど)→ご褒美
という順番で練習していきます。
犬のコマンド、注意点・ポイントは?

コマンドトレーニングの流れを確認しながら注意点とポイントを説明します。
コマンドトレーニングの手順
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手におやつを持ち、誘導によって行動を教えます。
成功したらご褒美をあげます。
おやつを持った手による誘導が学習できたら、次のステップに移りましょう。 -
おやつを持たずに、手の動きだけで行動できるように練習していきます。
成功すればご褒美をあげます。 -
手の動きだけで反応できるようになったら、動きと言葉を結びつけます。
おすわりなどの言葉を口にしてから、ハンドサインを出します。
成功したらご褒美をあげましょう。 -
言葉のコマンドとハンドサインを示す感覚を徐々にあけていきます。
次第に言葉のコマンドとハンドサインが結びつき、言葉だけで反応するようになってくるでしょう。
英語で教えることも可能です。
日本語によるコマンドトレーニングが成功した後に、英語のコマンドを結びつければバイリンガルにもなれます。
なお、言葉のコマンドとハンドサインを同時に行なう「同時条件付け」という学習もありますが、言葉のコマンドを先に言ってハンドサインを出す方が、より学習が早いとされています。
また、ハンドサインを出した後に言葉のコマンドを提示しても、言葉のサインが結び付かず学習が成立しません。
必ず、言葉のコマンドを提示してから一呼吸空けてハンドサインを提示するようにしましょう。
コマンドトレーニングで気をつけること
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誘導のおやつをご褒美にしない
おやつによる誘導を行なっているとき、誘導に使っているおやつをご褒美として与えないこと。
成功のご褒美は反対の手からあげてください。
なぜなら、手に持ったおやつをそのまま与えてしまうと、手におやつを持っていないと行動しなくなってしまうからです。犬の行動を作るために用いた誘導のためのおやつとは違い、ご褒美としてのおやつは別の場所から出てくると犬に覚えさせましょう。
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おやつとご褒美は同じ内容のものに
ボーロならボーロ、ジャーキーならジャーキー、誘導に使うおやつとご褒美は同じ内容のものにしましょう。
犬にとって同等の価値のあるものが望ましいです。誘導のおやつよりご褒美の価値が低いと、犬の学習意欲が高まりません。
また、誘導のおやつより価値が高いご褒美では、そもそも犬を誘導することが難しくなるでしょう。 -
手の動きを教えているときは他の部分を動かさない
犬はとても細かな部分までよく観察しているため、飼い主さんのふとした動きにも反応してしまいます。
無意識のうちに前屈みになったり、しゃがみこんだりしていると、そうした動きによってコマンドを覚えてしまう可能性があります。
ほかの動きをしないように気をつけましょう。
犬のコマンドまとめ

コマンドは「おすわり」「まて」「おいで」など、飼い主さんが愛犬に望む行動を起こすように示す合図のことです。
ご褒美のおやつを上手に使ってトレーニングを行なっていきましょう。
思うようにトレーニングが進まないと感じている飼い主さんは、愛犬を誘導する方法やほめるタイミング、コマンドを教える順序など、コマンドトレーニングの際のポイントを改めて見直してみましょう。
愛犬とのコミュニケーション手段のひとつとして、楽しみながらトレーニングを進めていってくださいね。