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旅を通してその土地の食を楽しむ~栗原心平の旅の流儀~

2015.11.05ANAオリジナル

ANAオリジナル
栗原心平さん

人気料理家栗原はるみさんを母に持ち、自身も料理家としてテレビや雑誌などで活躍する栗原心平さん。仕事で訪れる全国各地のおいしい料理やお酒をヒントに、手軽でおいしいごはんのおかずやおつまみのレシピを提案しています。
そんな栗原さんの旅はさぞかしおいしいものにあふれているのではないでしょうか?そんな好奇心から、栗原さんに食にまつわる旅の思い出をうかがいました。

Text by
Hikaru Arasawa
Photo by
Yuko Sudo
栗原心平さんインタビューの様子

地元の人が普段利用している店で真の郷土料理を味わう

―― 普段から旅に出ることは多いのですか?

栗原心平さん(以下敬称略):そうですね。出張が多いのですが、国内を含めかなりの頻度で出かけています。

―― 一番印象に残っている旅先はどこですか?

栗原:九州はすごく好きな場所です。食べ物が東京とは全然味付けが違いますし、行くたびに郷土のごはんを食べて、新鮮な驚きとともに帰ってきます。

料理だけでなく人の心も温かいですし、冬でも過ごしやすい環境も気に入っています。

―― 旅の楽しみは現地の料理という人もいるほどですが、やはり旅先での食は大切ですか?

栗原:そうですね。やはりその土地で食べたものが旅を強く印象付ける部分はありますね。

―― 九州ではどんな食べ物がおいしかったですか?

栗原:ひかりモノが大好きなんです。今でこそ東京でも目にするようになりましたが、10年以上前に福岡でゴマサバを食べたときのことは忘れられませんね。生サバなんですが、本当においしかった。
あとは有明海の旬の太刀魚の塩焼きは絶対に食べてほしいですね。キビナゴもおすすめです。旬のものは間違いがないですね。

―― 九州といえばお酒が有名ですが

栗原:九州では焼酎ですね。いちばん好きなのは「元老院」という長期樽貯蔵の焼酎。鹿児島の芋焼酎で、これがウイスキーみたいなんです。炭酸で割ってちょっとライムなどを絞ったら最高ですよ。
初めて鹿児島に行ったときに、居酒屋のおやじさんが「元老院」をロックでなみなみと注いでくれて、カボスをギュッとたくさん絞ってくれたんです。飲んでみたら、もう衝撃的においしくて。

―― そういった居酒屋は、やはり有名店なのですか?

栗原:地元の方に連れていっていただくことが多いのですが、いつも僕は、実際にみなさんがいつも行かれている地元の居酒屋にしてくださいって言うんです。高級店はもちろんおいしいのですが、味付けから盛り付けまでやはり洗練されすぎているように感じます。
日本でも海外でも、地元の人が普段利用している店が好きですね。そうやって連れていっていただいた店が行きつけになることも少なくありません。

栗原さんインタビューの様子

旅先の味にインスピレーションを得て、エスニック料理が家庭料理に

―― 海外ではどんなところに行かれますか?

栗原:仕事の関係でタイや中国によく行きます。タイ料理といったら同じ味付けで、どれも似たりよったりと考えている人が多いと思うのですが、高級タイ料理からそれこそ屋台までいろいろあるんですよ。
地元の人が行っている100円ぐらいで食べられる定食屋から宮廷料理のような超高級タイ料理までいろんな味わいがあり、その日の体調や気分にあわせていろいろ選べます。
安い定食屋が高級住宅街にポツンとあったりするのもおもしろいですよね。タイ料理は奥深いと感じます。

―― 実際に食べたタイ料理にインスピレーションを得て、レシピに反映されたということはありますか?

栗原:ありますよ。タイといったらトムヤンクンやタイカレーが知られていますが、タイ料理はどれも香りが強い食材を上手に使っています。パクチーやレモングラスが特徴的だと思うのですが、日本人はどこか苦手意識もありますし、家庭料理にあまり取り入れませんよね。僕はよくレモングラスを使います。例えばスクランブルエッグに入れたり、トマトソースに入れたりします。レモングラスの香りって、意外かもしれませんが使ってみると料理の邪魔をしないんですよ。そんな風に、地元の食材や料理法を直感的に取り込むことは多いです。

―― 旅先ではいつも「これは日本人にもイケるかな」などと考えながら食事をするのですか?

栗原:日本人にイケるかどうかっていうのは結果論なので、それよりも家でもおいしく作れるかなっていうのが重要なポイントです。

―― 散策していて偶然おいしいお店を見つけるなんてことはありますか?

栗原:それもありますね。上海でのことなのですが、上半身裸のおじさんが観光地でお弁当を届けに来ていたんですよ。そのお弁当がおいしそうだったので、あとをつけてみたんです。そうしたら路地裏の奥の地元の若者がたむろしているような場所に入っていくんです。行ってみたらそこは弁当店ではなくて、軒下に調理台があって外で食べるような簡単な店でした。ピージュウ(中国語のビール)という言葉すら通じなくて、ちょっと危ない雰囲気もあったんですが。でもそこで食べた料理がすごくおいしくて。今やそこは行きつけになっています。

―― どんな料理だったのですか?

栗原:メニューの漢字も日本のものと違うのでよくわからなかったのですが、もう勘でこれとこれ…なんてオーダーしました。ひとつは魚の浮袋と何かの実を辛いソースと一緒に土鍋でグツグツ煮込んだもの。そこにビーフンが入っているんです。これがもう、感動的にうまかったです。
路地裏にいた人たちもすごく優しくて、ビールはこうやって飲むんだよなんて教えてくれて。ちょっと恐怖もありましたが、そんな触れ合いも思い出深いですよね。

―― すごいですね。やはり食に対して貪欲なんですね。

栗原:そうですね。食べるならおいしいものを食べたい。その時は父親と一緒だったのですが、うちは家族全員、その気持ちが強いですね。

栗原さんインタビューの様子

旅先でしか食べられない感動的においしい料理との出合い

―― ヨーロッパはいかがですか?

栗原:プラハは素晴らしかったですね。油絵をそのまま切り取ったような風景が広がっていて。街の規模もちょうどいい感じですよね。昔の建物の窓枠とかがかわいいんです。
食べ物もおいしいですよね。煮込み料理や肉料理など。あとは地ビール。プラハはまた行きたいですね。

―― 食でビックリした体験などはありませんか?

栗原:オーストリアで修道院を改装したワイナリーに行ったんです。ビックリしたのは、そこではみんなワインを炭酸で割るんです。オーストリアのワインは甘めなんですが、それを炭酸で割るとまるでチューハイみたいで。悪くないですよ。それにあわせるのはシュニッツェル。肉を平べったくしてパン粉をつけて揚げた郷土料理です。
あとオーストリアではかぼちゃの種から採ったパンプキンシードオイルをよく使うのですが、それを自家製のハムにかけて食べたり。これもまた感動的においしいですよ。

―― やはり視点が違いますね。

栗原:でもね、感動しておみやげに持って帰って日本で作ってみても全然違うんです。オイルもハムもいろいろありますしね。風土や環境もあるでしょう。そういう感動的な食との出合いも旅ならではの魅力ですね。

栗原さんインタビューの様子

予定外のお店での“食”との出合いが旅をおもしろくする

―― 家族旅行などでコンドミニアムや貸別荘など、キッチン付きの宿に泊まりたいなんて思いますか?

栗原:思います。できればそういうところに泊まりたいですね。

―― 旅先でまで料理はしたくないっておっしゃるかと思いました。

栗原:全然違いますね。むしろできるだけしたいです。できる環境があったら絶対にしますし、実際にしたこともあります。マーケットに行って買い物して…って、最高に楽しいじゃないですか。普段使わない食材を、限りある環境の中でやるというのに楽しみを感じますね。
いつも僕の料理を食べている家族は逆に外食がいいなんていいそうですけど(笑)

―― 今後、行ってみたい場所や興味がある場所はありますか?

栗原:アメリカ南部に行ってみたいです。ニューヨークはよく仕事で行くのですが、メキシコのにおいがする南部がなんだか気になるんです。
あと南アフリカですね。食事も気になりますが、何といってもワインがいいですよね。

―― 最後に読者の皆さんに“食”の視点から見た旅の楽しみを教えてください。

栗原:あまり緻密に旅のスケジュールを決めるのは好きではありません。ある程度のポイントだけ決めていったほうが、ルーズに楽しめると思います。ここの団子屋さんおいしいからちょっと長居しちゃおうとか、行き当たりばったりでスケジュールを崩しちゃうのも旅の醍醐味だと思います。
京都なんかも、寺社仏閣をスケジュール通りに見ていくのもいいのですが、観光の合間にふらりと立ち寄れるお茶屋さんも素晴らしいですよ。自分が今、時間がなくてなかなかできないので、ぜひ皆さんに体験してほしいと思います。

―― ありがとうございました。

旅の空いた時間を埋める、栗原心平さんの旅のマストアイテム

普段から使っているアイテムを持っていけば、旅先でもいつもと変わらず快適に過ごせるはず

ヨーロッパからアジア、日本国内まで、旅先で出合った“食”について語ってくれた栗原心平さん。最近はもっぱら仕事での旅が多く、食材や郷土料理、そして調理器具…と、いつも料理家の視点で旅先の“食”を探究し、忙しく駆け回っています。
そんな彼が、しばし仕事を忘れ、リラックスできるのは、もしかしたら機内や電車の中など移動の途中だけかもしれません。

栗原さんが旅に必ず持っていくモノは本です。「常に読むものを欲している」とのことで、移動が多い月であれば10冊ぐらい読んでしまうそう。
「ジャンルはほぼ時代小説ですね。ほとんどがハードカバーです」と栗原さん。必ず機内持ち込みのバッグに本を忍ばせ、帰路に読む分を考えながら、読み切ってしまわないように調整するそうです。
「飛行機の中では、朝の便であればまずは新聞を読んで、それから機内誌を読みます。機内誌、結構好きなんですよ。そのあとに本ですね」。そして時代小説のロマンを熱く語ってくれました。

ご自身を「せっかちな性格」といい、いつも笑顔でやんちゃな雰囲気が漂う栗原さんですが、お話の端々に繊細で誠実なお人柄を感じました。そんな彼の旅のリラックスタイムをともにする本。きっと本の中でも、時代を超えた時空旅行を楽しんでいるに違いありません。

栗原心平(くりはらしんぺい)
栗原心平(くりはらしんぺい)
1978年生まれ。料理家 栗原はるみの長男。
(株)ゆとりの空間の代表取締役専務として会社の経営に携わる。
一方、幼い頃から得意だった料理の腕を活かし、自身も料理家としてテレビや雑誌などを中心に活躍中。現在、料理番組『男子ごはん』(テレビ東京系列)にレギュラー出演中。共著『男子ごはんの本5~7』(M.Co.)ほか、レシピ本、電子書籍の著書多数。