ANA Inspiration of Japan

好奇心を刺激する、旅と日常にまつわるWebマガジンライフスタイルマガジン ANA Travel & Life (トラベル アンド ライフ)

とんかつ好きならコンプリートしたい!
今行くべき東京の老舗&注目店

2018.06.14ANAオリジナル

美食家・池波正太郎が愛した
目黒の『とんかつ とんき』

巨大なのれんが老舗の風格を漂わせています
巨大なのれんが老舗の風格を漂わせています

最後に東京を代表するとんかつ店の老舗2店を紹介しましょう。1軒目は、言わずとしれた名店、目黒の『とんかつ とんき』。昭和14年創業の名店で、ここからのれん分けしたお店も多数あります。

のれんをくぐるとまず圧巻なのは、1階の厨房を囲むコの字型のカウンター。そのなかでは、職人たちが、忙しそうに手を動かしています。とんかつを揚げる担当、切る担当、盛り付ける担当……と完全な分業制。まるで、「とんかつ劇場」を見ているようで、胸が躍ります。

1階カウンターに座れば、「とんかつ劇場」が開幕
1階カウンターに座れば、「とんかつ劇場」が開幕

現在の住所に移転したのは、昭和42年のこと。その前は目黒駅西口の別の場所で営業していました。その当時の常連客が美食家としても知られる作家・池波正太郎。『散歩のとき何か食べたくなって』(新潮文庫)などに、『とんき』の記述が多数見られます。

「当時は、カウンター内に給仕の女の子たちがたくさんいて、キャベツがなくなれば飛んで来るし、タバコをくわえれば火を点けてくれたそうなんです。池波さんは、ここがあれば、キャバレーは要らないと言っていたなんて話もあります」そう語るのは、厨房に立つ吉原出日さん。現在は、男性中心ですっかり硬派な雰囲気ですが、白木のカウンターに座っていると往時の情景を少しでも味わえるような気がします。

初心者は、まず「ロースかつ定食」から!
初心者は、まず「ロースかつ定食」から!

オーダーしたのは、「ロースかつ定食」(税込1,900円)。純国産の豚肉をリーズナブルな価格で提供しています。開店と同時に入店して、待つこと約15分。店内にはラードの香ばしい匂いが漂い、とんかつが揚がっている音が響きます。カウンターのお客さんたちも多くを語らず、ビールやお茶を飲みながら、じーっと待つだけ。窓からは西日が射しこみ、昭和からタイムスリップしたような、なんとも言えない時間が流れます。

ヨコ方向にも1本切れ目が入る「とんき」のロースかつ
ヨコ方向にも1本切れ目が入る「とんき」のロースかつ

そして、ついに「ロースかつ定食」が到着。薄くカリッとした衣は、粗めのパン粉で仕上げた平成ニューウェイブ系のとんかつとは、一線を画します。まず、ソースがかかった端っこをひと口。しっかりと豚の匂いがする、歴史が詰まった風味が鼻腔に抜けていきます。タテ方向だけでなく、ヨコ方向にも1本切れ目が入っているのが「とんき」の特徴。赤身と脂身の配分がよく考えられたカットに思わずうなってしまいます。カウンターにあるのは、ソースのみ。かけ過ぎて味が台なしにならないように、慎重にソースをかけながら、食べ進んでいくとあっというまに最後のひと切れ。至福の時間を堪能できました。

メニューは、「ロースかつ」「ヒレかつ」「串かつ」の3品のみ。これを定食と単品で提供しています。平日の17時くらいなら、並ばずに入れることもあるとか。また、4名以上なら2階のテーブル席を予約することも可能です。

とんかつ とんき
とんかつ とんき
住所:東京都目黒区下目黒1-1-2
TEL:03-3830-0235
営業時間:16:00~22:45(L.O.)
定休日:火曜、第3月曜
アクセス:JR山手線「目黒」駅徒歩3分

小津安二郎映画のモデルになった
上野の『蓬莱屋』

松坂屋の裏手にひっそりと佇む『蓬莱屋』
松坂屋の裏手にひっそりと佇む『蓬莱屋』

2軒目は、小津安二郎監督が足繁く通ったという上野の名店『蓬莱屋』。大正元年創業の老舗中の老舗です。小津監督は、長期の地方ロケの前には、必ずこの店に寄って、とんかつを堪能してから旅立ったのだとか。また、昭和32年の作品『東京暮色』以降、蓼科高原の別荘『雲呼荘』に籠もって脚本を執筆していた監督は、現地であまりのとんかつ恋しさに「とんとん とんかつ食いたいな 蓬莱屋が懐かしや(雲呼荘小唄)」という唄までつくって気を紛らわせていたといいます。

小津作品のモデルとなった2階の座敷
小津作品のモデルとなった2階の座敷

大正時代の創業時は屋台だったお店は、昭和3年に現在の位置に移転。そのままの建物で営業を続けています。1階はカウンターで、2階はお座敷。この座敷は、小津監督の遺作『秋刀魚の味』に登場するとんかつ屋のシーンのモデルになったと言われています。

当時のままの姿で供される「ひれかつ」
当時のままの姿で供される「ひれかつ」

そんな小津監督が愛したとんかつを味わいたいなら、迷わず「ひれかつ」(税込2,980円)をオーダーすべきでしょう。220度の高温の油と170度の中温の油で2度揚げする調理法は当時のまま。薄めのソースをかけてひと口頬張ると、薄くカリッとした衣の中に豚肉の旨みがギュッと凝縮されています。うーん、これまたどの店にもない深い味わいです。

小津監督が描いた色紙も飾られています
小津監督が描いた色紙も飾られています

メニューは、「ひれかつ」、「一口かつ」、「串かつ」のみと至ってシンプル。これらが盛り合わせになった「東京物語御膳」(税込2,460円)もおすすめです。夕方にフラッと立ち寄って、「ひれかつ」と一緒に日本酒を1杯なんて、ちょっと粋かもしれませんね!

蓬莱屋
蓬莱屋
住所:東京都台東区上野3-28-5
TEL:03-3831-5783
営業時間:11:30~13:30(L.O.)/17:00~19:30(L.O.)、土・日・祝 11:30~14:00(L.O.)/17:00~19:30(L.O.)
定休日:水曜(祝日の場合は翌木曜)
アクセス:JR山手線「上野」駅徒歩3分

いかがでしたか? ほかにもとんかつの名店はたくさんありますが、まず東京とんかつのトレンド、そして、そこに至る系譜を知るうえで、今回の7店は外せないのではないでしょうか。自称「とんかつファン」のみなさんは、ぜひコンプリートしてみてください。そこから見える風景が必ずあるはずです!