県内の各地に有名な温泉が点在する山形。その中でも、ノスタルジックな温泉街のロケーションで知られる「銀山温泉」は、一生に一度は行っておきたい名湯のひとつ。そこで、風情あふれる銀山温泉の街並みや温泉を紹介するとともに、銀山温泉周辺の観光スポットや、山形牛や芋煮、ワインなど“食の宝庫・山形”のグルメも満喫できる1泊2日の旅を案内します。

Text by
Ayano Sakai(verb)
Photo by
Noriko Yoneyama

【1日目 12:30】そば街道の名店で絶品の十割そばを食す!

山形県のグルメといえば山形牛や芋煮が知られていますが、実は蕎麦の産地としても有名。なかでも尾花沢、大石田、村山の3つの地域にはそばの名店が軒を連ねる「そば街道」があり、山形の「三大そば街道」と呼ばれています。今回はそのうちの1軒、古い歴史と創業当時から変わらぬそば作りを掲げる「あらきそば」に伺いました。

江戸時代後期に建てられた、歴史深いかやぶき屋根の古民家
江戸時代後期に建てられた、歴史深いかやぶき屋根の古民家
「最上川三難所そば街道」の名店
「最上川三難所そば街道」の名店

「あらきそば」に到着すると目に飛び込んできたのは、日本昔話に出てきそうな立派なかやぶき屋根! そして、入口の扉を開けると土間に囲炉裏があり、靴を脱いで客室に上がると30畳ほどの畳敷きのお座敷が広がります。外観を裏切らぬ趣に、旅情感が溢れてきます。

柱や梁、襖など、昔のままの姿が残るお座敷
柱や梁、襖など、昔のままの姿が残るお座敷

「あらきそば」の創業は大正9年。もとは百姓として農作物を作っていた初代の芦野勘三郎氏が、畑仕事ができない冬の間だけそばを打って商売を始めたところ、その腕の良さが評判となりたちまち人気店に。

「蕎麦は鮮度が命。原料と製粉がよくなければおいしいそばは打てない」と四代目の芦野浩平さん。その日の午後に翌日分を製粉し、2日以内に使い切る。
「蕎麦は鮮度が命。原料と製粉がよくなければおいしいそばは打てない」と四代目の芦野浩平さん。
その日の午後に翌日分を製粉し、2日以内に使い切る。

そばのメニューは、創業当時から変わらず板そばのみ。蕎麦粉は村山産の「でわかおり」という品種をメインで使用し、香り高く、新蕎麦の時期にはほんのり甘みを感じる味わいが特徴です。太うちでコシのある十割そばを、「ワシワシと食べるのがうちのスタイル」と女将が話します。

あらきそばでは、「盛り」ではなく万葉仮名で「毛利」と書く。うす毛利 1,200円
あらきそばでは、「盛り」ではなく万葉仮名で「毛利」と書く。うす毛利 1,200円

硬めに茹であげられたそばをずずっとすすると、噛んだそばから滋味深いそばの味が広がり、噛むほどに奥からほの甘い風味がじんわりと押し寄せてきます。十割なのにボソボソとした食感はなく、その印象は、力強く無骨。

味と香りがしっかり伝わる太打ち。この風味をダイレクトに味わってほしいから、天ぷらやほかの具材は一切添えない
味と香りがしっかり伝わる太打ち。この風味をダイレクトに味わってほしいから、天ぷらやほかの具材は一切添えない

十割そばの真髄を感じられる本格的な味わいを、静かにじっくりと堪能したくなる「あらきそば」の手打ちそば。そば好きならば一度は訪れてほしい、山形そば街道の名店です。

あらきそば
住所:山形県村山市大久保甲65番地
TEL:0237-54-2248
営業時間:11:00~14:00/水曜休
URL:http://arakisoba.com/

【1日目 14:15】大正ロマン漂う風情。銀山温泉に到着!

絶品の十割そばの余韻に浸りつつ、そこから車で約40分。今回の旅の目的地、「銀山温泉」に到着しました。

ゆるやかな坂道を下ると、川の両脇に木造建築のレトロな旅館が軒を連ねる、昔ながらの温泉街の風景が目の前に広がります。ポスターなどにもよく使われる、この大正ロマンの郷愁を感じるノスタルジックな町並みに思わず心が奪われます。

川のカーブに沿って並ぶ宿。奥に行けば行くほど風情が高まり絵になる風景が広がる
川のカーブに沿って並ぶ宿。奥に行けば行くほど風情が高まり絵になる風景が広がる

銀山温泉は、江戸時代初期の大銀山として栄えた、「延沢銀山」の名称に由来。かつてはかやぶき屋根の宿が並ぶ湯治場としてにぎわいましたが、大洪水で流され温泉街が壊滅。その後、昭和元年に源泉のボーリングで高温多量の湯が湧出し、各旅館は一斉に洋風の3~4層木造構造に建て替えを行いました。そして、昭和61年に「銀山温泉家並保存条例」を制定され、今も伝統を生かした温泉街にしていく努力を街全体で行っています。

風情ある街並みをのんびり歩きながら、川沿いの足湯で温まったりしたり、老舗の「野川とうふや」で名物のお豆腐を食べ歩きしたり。お豆腐とビールを買って、足湯に浸りながら一杯! そんな大人ならではの楽しみ方もおすすめです。

創業から100年以上続く「野川とうふや」
創業から100年以上続く「野川とうふや」
アツアツふわふわの立ち食い生揚げ 220円。15時頃には売り切れる日も多々ある、銀山温泉名物
アツアツふわふわの立ち食い生揚げ 220円。15時頃には売り切れる日も多々ある、銀山温泉名物
川の音をBGMに、足湯に浸かりながら風情ある景色を満喫
川の音をBGMに、足湯に浸かりながら風情ある景色を満喫

川沿いに温泉街の奥へと進むと、カレーパンが人気の「はいからさんのカリーパン」や、こけし作りが体験できるお店も発見。宿やお店がコンパクトに密集しているので、一泊でも温泉街の観光を十分満喫できます。

温泉街には名物グルメやおみやげ屋さんも点在
温泉街には名物グルメやおみやげ屋さんも点在
山形はこけしも有名。連続テレビドラマ「おしん」に銀山こけしが登場し、銀山温泉の名が全国に広く知られるきっかけになった
山形はこけしも有名。連続テレビドラマ「おしん」に銀山こけしが登場し、銀山温泉の名が全国に広く知られるきっかけになった
夕方頃から灯り始めるガス灯が、温泉街をいっそうロマンチックに演出
夕方頃から灯り始めるガス灯が、温泉街をいっそうロマンチックに演出

【1日目 15:30】銀山温泉のシンボル、「能登屋旅館」に宿泊

登録有形文化財に指定されている能登屋旅館
登録有形文化財に指定されている能登屋旅館

銀山温泉を訪れたらぜひ宿泊したいのが、創業明治25年の老舗旅館「能登屋旅館」。温泉街のなかでも圧倒的な存在感を放つ、木造三階建ての建物で二層の望楼が印象的です。存在感たっぷりの立派な宿の前に赤い橋がかかったそのアプローチが、まるでジブリ映画『千と千尋の神隠し』に登場する「油屋」のよう。ジブリファンの間では、「能登屋旅館」がそのモデルのひとつなのでは? とも噂されています。

館内のいたるところにも、宿の歴史を感じる古き良き時代の面影が残りタイムスリップしたような気分を味わえます。部屋に辿り着くまでの時間も、あちこちに目を奪われときめきが止まりません。

本館の廊下に設けられた休憩所もレトロな雰囲気たっぷり
本館の廊下に設けられた休憩所もレトロな雰囲気たっぷり
大正時代からそのままの姿を留めている階段
大正時代からそのままの姿を留めている階段
手摺りの意匠も素敵
手摺りの意匠も素敵

今回宿泊したのは、本館2階にある川沿いの和室10帖のお部屋。清潔で広々とした部屋の快適さはもちろん、部屋の窓からは、ここに泊まった人だけが見ることのできる景色が広がります。

落ち着きのあるくつろぎの空間
落ち着きのあるくつろぎの空間
夜の街を一望できる部屋からの眺めも最高!
夜の街を一望できる部屋からの眺めも最高!

いよいよお待ちかねの夕食の時間。能登屋旅館は料理も絶品で、尾花沢牛や鴨などの地元産の食材を使った料理も評判です。季節のお刺身や鯉の甘露煮、手打ちそばなど続々と料理が運ばれてきます。

尾花沢牛のしゃぶしゃぶ。サシの美しさから一目でわかる質のよさ
尾花沢牛のしゃぶしゃぶ。サシの美しさから一目でわかる質のよさ

なかでも、尾花沢牛のしゃぶしゃぶは感動モノのおいしさ! 歯が要らないほどのやわらかさとブワーッと広がる甘さとうま味に、思わず言葉を失います。米沢の豚肉も付き、こちらも甘みが濃厚で牛肉と引けを取らないおいしさ。トドメには山形のブランド米「つや姫」も登場し、めくるめく山形美食のオンパレードに胃が休まりません。

1枚1枚の肉が大きく贅沢気分に浸れる
1枚1枚の肉が大きく贅沢気分に浸れる
尾花沢牛を使った醬油仕立ての芋煮も登場。天然なめこや里芋など野菜も主役級のおいしさ
尾花沢牛を使った醬油仕立ての芋煮も登場。天然なめこや里芋など野菜も主役級のおいしさ

温泉は男女別の大浴場と露天風呂に、洞窟風呂、展望風呂を楽しめ、異なる趣向のお風呂で湯浴みできるのも魅力です。なかでも感動したのが、貸切で利用できる展望風呂。旅館から高台へと続く長い階段を上った先にお風呂があり、温泉に浸かりながら白銀の滝を望むことができるのです。森の中のロケーションが非日常的で、滝の音が響き渡り解放感抜群。景色を満喫するなら、夕方か朝方の利用がおすすめです。

硫黄が香るサラサラとした肌触りの泉質で、湯上りは肌がしっとりスベスベに
硫黄が香るサラサラとした肌触りの泉質で、湯上りは肌がしっとりスベスベに
展望露天風呂。40分貸切で利用できる(無料)
展望露天風呂。40分貸切で利用できる(無料)
開業時当より元湯として利用されている洞窟風呂。空いていればいつでも貸切で利用できる
開業時当より元湯として利用されている洞窟風呂。空いていればいつでも貸切で利用できる

食後は夜の街をおさんぽ。宿の窓やガス灯のオレンジ色のやさしい灯りに街がライトアップされて、夜は一層ロマンチックなムードに。暖かみのある風情に心が和みます。

ライトアップした街並みを撮影する観光客で夜もにぎわう
ライトアップした街並みを撮影する観光客で夜もにぎわう
夜は一層絵になる能登屋旅館の外観。宿泊客以外もひっきりなしに撮影に訪れる
夜は一層絵になる能登屋旅館の外観。宿泊客以外もひっきりなしに撮影に訪れる

銀山温泉は夜遊びするようなお店はほとんどなく、夜はしんと静か。しっぽりと静かに温泉でくつろぎたい時には、このうえないロケーションといえます。夜の散策で冷えた体を温泉で温め直し、ポカポカのまま布団にもぐりこみ1日目を終えました。