ANA Professionals

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フライトに繋げる縁の下の力持ちグランドハンドリング担当の誠意 経験と技術のみならず、気持ちが整って一人前 飛行機が飛び立つ前。客席から窓の外に目をやると、荷物を積むスタッフの影。やがて機体はゲートをゆっくりと離れる。そこに見えるのは、手を振るスタッフだ。あるいは着陸後の荷下ろし。目に見える彼らの行動はそれくらいかもしれないが、それらはほんの一部。オペレーションは数多くあり、それらは時間との勝負だ。そしてひとつのミスも許されない、シビアでストイックな世界だ。 文=吉州 正行  写真=小島 マサヒロ #11 グランドハンドリング担当 岡野 稔広

巨大な飛行機を地上で自在に操る仕事 成田発パリ行きのANAの旅客機。離陸を約1時間後に控える巨体の傍らに、岡野稔広はいた。リフト上でレバーを操作し、貨物やコンテナを貨物室に搭載する。ひとつひとつはおそらく数百キロに及ぶであろう巨大さ。そこで驚くべきは、機械のように、正確かつリズム良くオペレーションが進むことだ。「右手で機内貨物室、左手で昇降機を操作します。特殊なものは事前通達がありますが、プライバシーのあることですから、基本的にお預かりした荷物の内容を細かく把握できません。それだけに、慎重に慎重を重ねて作業します。『日本人の丁寧な仕事』をみな心がけていますよ」かくしてハッチを慎重に閉めるや、今度はお客様からお預かりした荷物をチームで連携し、丁寧に積む。そしてここからが岡野の作業の本番だ。トーイングトラクターを操縦し、飛行機を誘導路に移動する。これをプッシュバックという。「大型の機体なら全長70mにもなります。それを自分の運転で移動させるので、緊張しますよ。バックミラーでは左右が見えませんから、監視専門の作業者を両翼に配して安全を確認しながら移動するんです」いわば300t前後の巨大な質量を“押し引き”するのが岡野の仕事。まさに縁の下の力持ちである。
夏も冬も昼も夜もひたすら“当たり前”を守る トーイングトラクターの操縦に必要なのは大型免許と牽引免許。加えて80回にのぼる実技練習だ。「最初はプレッシャーで足が震えました」と振り返る。もっとも大切なことは、安全という前提に裏打ちされた“定刻通り”だという。「少しのミスでスケジュールに狂いが生じてしまいます。だから離陸時間から逆算して、何分前に荷物を搭載し、何分前にドアが閉まってと、責任者がすべて管理するんです」冬は凍えるように寒いし、夏場はアスファルトの上で摂氏50度を超えることもある。だがそこはさほど問題じゃない、とばかりに屈託なく笑う。ちょっとあどけなさを感じるが、その笑いはきっとプロの余裕。お客様の荷物に安全、そして時間まで預かる職責があるのだ。「慣れるんですよ(笑)。確かにうだるような暑さの日は堪えますが、そんなことは遅延の理由になりません。私たちの仕事は“当たり前”を積み重ねることです。だから悪天候の中や時間が押している中でも、仲間と一致団結して当然のように定刻通りに見送れることが、大きなやりがいですね」
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「思い入れはなかった」なかでがむしゃらに働いた末に しかし「もともと飛行機が好き」…というわけじゃなかったらしい。「キッカケのひとつを思い返せば、小さい頃に父と一緒に行った飛行機の格納庫見学でしょうか。高校時代に進路を考えるに当たって、ふとそのことを思い出したんですね。そこで空港のことをいろいろ調べてみたら、この仕事を見つけたんです」中学高校は部活のバレーボールで汗を流していただけに、体力には自信があったという岡野。しかしそこで待っていたのは、予想を裏切るハードな日々だったという。「最初のころは航空機のバラ積み貨物室への搭載作業や離着陸のない時間帯に行うコンテナの積みつけなど、免許を必要としない作業を担当していました。当然慣れない作業ですから、毎日クタクタでしたね。それに成田は国際空港ですから、朝5時30分からの勤務もあれば、夜勤ということもあります。日本にいながら時差ボケになっていました」そして、先述のように積み重ねがその問題を解決してくれるという。
積み重ねと慣れに加え、いつしかプライドが生まれる しかし話が深まると、どうやらそんな“慣れ”ばかりの問題でもなさそうだと思わされてくる。というのも、岡野は現在“指定インストラクター”という立場にあるのだが…。「作業ひとつひとつに“許可制”を導入しています。荷物の積み方、ドアの閉め方ひとつでも、自分なりのやり方は許されません。それを指導して許可を出していくことが僕の役割です。オリジナルのやり方がまかり通れば、いつか事故につながる可能性がありますから」すなわち、今年13年目を迎える岡野にとって、仕事は積み重ねである一方、安全を預かる知恵とノウハウであり、誠意なのだ。仕事にかけるそんなプライドがあればこそ、「仕事に体が追いついてくる」ということなのだろう。「実技は手順書に基づいて覚えることができます。でも、インストラクターとしては意識の部分を育てることが一番の仕事だと思っています。たとえば数百人の命を預かっているわけです。遅延を起こせば、たくさんのお客様にご迷惑をおかけすることになります。後輩を育成する立場になったので、やはり技術のみならず意識も一人前の作業者に育てたいですね」

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