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最高の「おもてなし」とは接遇マナー講師という仕事 空のホスピタリティがどこまで世間に通じるか? 接遇マナー講師と聞いて、ピンと来る人はまずいないだろう。接遇とはすなわち、おもてなし。 「思いがけなく出会ったすべての人におもてなしの心を伝える」ということだそうだ。空で育んだノウハウを、空だけにとどめておくのはもったいない。そして現場で教える講師に、その「培ってきたもの」はかかっているのだ。文=吉州 正行  写真=小島 マサヒロ  #09 ANAビジネスソリューション営業本部 大阪支店 副支店長 佐野川谷 有加子

良いサービスとは、マニュアル通りとは限らない 名刺交換をする際に所作の美しさに目を見張った。所属、名前はキチンと言う。目はまっすぐに見据える。それは、ビジネスマナーかくあるべしという流麗さなのだ。「人の印象は15秒で決まりますから、名刺交換は最初の大切な瞬間だと思っております」佐野川谷有加子はANAで接遇マナー講師を務めている。客室乗務員などがANAで培ったノウハウを、業種の垣根を越えて伝えるというものだ。そして佐野川谷自身、現役の客室乗務員なのである。「小さいころにドラマを見て、空の世界に憧れがありました」と語るように、マナー講師を目指してきたわけではない。だがあるとき、マニュアル通りに行うだけでは、サービスは作り上げられないと気づかされた。「フライトを始めて間もない頃、ご年配の方から、『あなたのようなお嬢さんを育てた親御さんに、感謝の気持ちをどうしても伝えたいんだ』と、言われてしまい、住所を教えたことがありました。すると毎年のようにタケノコを送ってくださるようになったのです。もちろん規程で個人情報はお伝えできませんし、今でしたら上手くお断りできたと思うのですが、あたりまえの何気ない会話やサービスに対して、こんな風に喜んでくださるお客様もいらっしゃるんだと感じた、今でも心に残るエピソードです」
気持ちだけでは伝わらない。心を表すために“もう一歩” 客室乗務員を専業していた当時、学ぶことにはハングリーだったという。会社が推奨する研修などは精力的に受けていた。「30代中頃に、社内資格である接遇マナー講師という役割ができて、その1期生として指名され、講師の勉強をしました。初めて講師を務めたのは、地方の家庭裁判所でした。プライベートな問題を相談される方に対して、適切な対応を学びたいというご依頼でした。とても緊張しましたが、皆様熱心に聴いてくださり、本当に嬉しかったです」誰もがなれるわけではない。一定水準以上の仕事をし、評価を得て、選ばれた結果が“接遇マナー講師”なのだ。また客室乗務員として乗務する際は、機内にVIPを迎えるフライトの責任者を担当することが多かったという。それだけにコミュニケーションが実に上手い。言葉が途切れず、身振り手振りを加えて話すのだ。「ボディーランゲージを効果的に使うことで、言葉や気持ちは相手に伝わりやすくなります。それはコミュニケーションの力です。たとえば日常の中でご年配の方が重い荷物を持って、駅の階段を上っている時に、荷物を持って差し上げたくても自分から声をかけて行動しなければ、せっかくの親切心がもったいないですよね。心を形に表す力がないとおもてなしはできません。同様にお一人おひとりがそういった力を持てば、企業や組織でのコミュニケーションの力は確実に向上するのです」
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真心がある場所すべてに役立てられる、ノウハウがある いわば、一人ひとりの心がけである。ANAでは、サービス基礎となるノウハウを“6つのS”で表すという。一緒に働きたいと思われる『Smile』。信頼を得るための身だしなみ、立ち居振る舞いや言葉遣いの『Smart』。お待たせ感を緩和する心遣いの『Speedy』。相手を思いやる気配りと誠意の『Sincerity』。学びの姿勢、感じることのできる心として、『Study』。プロとしての仕事、『Speciality』である。「ただ100人いらっしゃれば100通りの評価がありますから、100様のサービスをしなければなりません。そのためには、基本をもとに考え、常に『今何ができるのか』を追求しなければならないのです」そしてANAのノウハウは、ヒューマンエラー対策にも及ぶ。整備部門で培ったナレッジを、エラー理論に基づき体系化、提供しているという。「最近は医療業界からのご依頼を多くいただきます。その理由として、例えばドクターがパイロット、看護師が客室乗務員、技師の方が整備士、受付業務を行う方がグランドスタッフと仮定すれば、チームで安全、安心で快適なサービスを提供するという点で、航空業界と医療業界には類似点が多くあるため、ANAで培った様々なノウハウが医療業界で役立てていただけているのだと、考えております」
本当の「おもてなし」とは?問い続けることに、価値がある …こう語り、壇上に立って実践する佐野川谷は、水を得た魚のようである。美しい言葉遣いで緩急を付け、事例を交えて話し、ときに受講者とコミュニケーションを取りながら、ロールプレイを行う。「講師としての私は、プロではないと思っております。講師として壇上に立たせていただいておりますが、もともと私は客室乗務員なのです。ANAで培ったノウハウしか持ち合わせておりません。ですから、他業種の方々から学ばせていただくことが非常に多いのです」だが、その経験にあぐらをかくことは許されない。「良い」とされる行動規範は、時代に応じて変化するのだから。「私が入社した頃は、飛行機は身近な交通手段ではありませんでした。今では、交通機関のひとつとして利用される方が多いと思います。LCC(ローコストキャリア)や新幹線といった競合があるなかで、一定の水準を満たすサービスは当たり前ですし、常に進化を迫られているのです」それは、社会全体の流れを見渡すことに他ならない。なおかつ、世間に対して常に“何を伝えられるか”を考えているという。その一例が、2014年6月に開校するANAエアラインスクールの大阪校だ。既に開講している東京校のノウハウを基に、大学や短大に通いながら受講できるダブルスクールで、客室乗務員を目指す学生の指導、育成を行っていく。

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