ANAグループは、国際人権章典(世界人権宣言と国際人権規約)、労働における基本的原則および権利に関する国際労働機関の宣言、国連グローバル・コンパクトの10原則、および国連のビジネスと人権に関する指導原則を基に、ANAグループ人権方針を定め、人権尊重の取り組みを推進しています。
ANAグループでは、全役職員を対象とした行動準則「社会への責任ガイドライン」において、人権問題に対して”守るべき行動”を示し、実践できているかを各人が折に触れて確認できるようにしています。
<社会への責任ガイドライン>
ANAホールディングス株式会社は、英国で施行されたModern Slavery Act 2015に基づき、2015年度の声明を公表いたします。詳しくは、こちら をご覧ください。
ANAグループでは、チーフCSRプロモーションオフィサーを人権への取り組みの責任者とし、CSR・リスク・コンプライアンス推進会議にて、方針や進捗等についてタイムリーに議論しています。また、グループ各社・各部署に配置されているCSRプロモーションリーダーと連携し、取り組みを推進しています。
2015年度に引き続き、新入社員研修、新任管理職研修等において、人権に係る啓発教育を実施しました。人権にかかわるグローバルな潮流や身近な事例をより多くの社員と共有することで、様々なステークホルダーの人権を考慮しながら日々の業務を行うことの重要性についての認識を深めています。
さらに、人権に対する理解をより深めるべく、グループ全社員を対象としたeラーニングも前年度同様に実施しました。「企業の社会的責任と人権」と題したe-learningを実施し、約1か月の受講期間で92.7%の社員が受講しました。2017年度も引き続き、社員への啓発を推進していきます。
<e-learning画面>
また、社員向けの通報窓口である「ANAアラート」を設置しています。派遣社員などを含むANAグループの全社員が利用可能となっており、相談者およびその関係者のプライバシーが保護されるとともに、相談または事実関係の確認に協力したことを理由に不利益な取り扱いが行われないことが約束されています。また、外部委託機関への相談窓口も設定しています。
ANAグループは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」において詳述される手順に従って、人権デューディリジェンスの仕組みを構築しました。人権デューディリジェンスとは、自社が社会に与えうる人権への負の影響を防止または軽減するために、予防的に調査・把握を行い、適切な手段を通じて是正し、その進捗ならびに結果について外部に開示する継続的なプロセスを言います。
<人権デューディリジェンスのプロセス>
(資料)Verisk MaplecroftとCRT日本委員会の支援を受けて、ANAグループにて作成
ANAグループは2016年度に、上記のプロセスに従い、ANAグループのあらゆる事業と事業展開国を対象としたリスクの影響度評価を実施し、今後重点的にリスク発生の防止に取り組んでいく人権テーマを絞り込みました。
<人権インパクトアセスメントの実施>
ANAグループは、Verisk Maplecroft社(※1)とCRT日本委員会(※2)の協力を得て、人権インパクトアセスメントを実施しています。
2016年度、まずは、ANAの事業活動が(事業展開国および事業内容毎に)人権に及ぼす潜在的な人権リスクの洗い出しを実施しました。このリスクアセスメントの実施においては、Verisk Maplecroft社の社会および環境リスクデータを用いました。この結果を参考に、CRT日本委員会と協力しながら、グループ内でのインタビューの実施や海外の有識者からアドバイスを得る等のプロセスも経て、ANAグループとして今後重点的にリスク発生の防止と対応に取り組んでいく人権課題(ならびに対象事業、展開国)を特定しました。その上で、2017年度は、特定したリスクの顕在性やステークホルダーにとっての影響度(インパクト)の分析、評価を進めるとともに、リスク発生の防止と対応にも取り組んでいます。
<Verisk Maplecroft社の指標に基づく分析>
<人権インパクトアセスメント実施範囲>
人権インパクトアセスメントの実施対象範囲は以下の通りです。
対象事業 | 航空運送事業、航空関連事業(空港地上支援、航空機整備、貨物・物流、車両整備、ケータリング等)、商社事業、旅行事業 |
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対象国・地域 | 日本、英国、フランス、ドイツ、ベルギー、中国、インド、ベトナム、タイ、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、台湾、韓国、オーストラリア、カナダ、アメリカ |
使用した社会・環境リスク指標 ※Verisk Maplecroft社の指標を利用 |
13指標:児童労働、適正賃金、適正な労働時間、職場における差別、強制労働、結社の自由と団体交渉権、移住労働者、職場における健康と安全、人身売買、温室効果ガス、大気の質、水質、腐敗 |
※1グローバルなリスク分析・リサーチ・戦略予測のトップ企業。データに基づくソリューションは、組織のレジリエンスや持続可能な調達等に影響をおよぼす主要な政治・人権・経済・環境リスクについて、世界的視野と詳細な情報、そして特別な知見を提供する。
※2ビジネスを通じて社会をより自由かつ公正で透明なものとすることを目的としたビジネスリーダーのグローバルネットワーク。
<テーマの特定と予防措置>
お客様やグループの従業員の人権への尊重・配慮は、我々の重大な責務であり、今後も継続して重点的に取組んでいきます。一方で、サプライチェーン上の関係各社における従業員の労働環境のさらなる整備についても、ANAグループは重要なテーマであると認識し、今後、協力・協働しながらリスクの予防に取り組んでいきます。
日本における外国人労働者の労働環境の問題は、海外でも注目を集めています。ANAグループとしても、重点的に取り組むべきテーマと認識し、グループ外の関係各社における実態まで把握するとともに、特に羽田と成田の2地点(2Site)においては、業務委託先企業と協力をし、方針の共有や従業員へのインタビュー等実施しています。
また、調達先企業の従業員の労働環境の把握・改善に対しても今後、重点的に取組む必要があると考えています。1次調達先と協力をし、中国を中心とした2次、3次調達先企業の労働環境の監視強化に取り組んでいきます。
機内食などの食にかかわる「サプライチェーンマネジメント」を強化していくことも重要なテーマとなります。トレーサビリティと透明性を確保することを目的とし、食に係わるサプライチェーン・プラットフォーム構築を目指すBlue number Initiativeにも日本企業として初めて参画しています。
ANAグループの社会的責任として、自らの事業活動のみならず、サプライチェーン全体(購入先、製造元、委託先など)においても、人権課題に取り組むことが求められていると認識しています。ANAグループ購買方針における「サプライヤマネジメント方針」および「CSRガイドライン」は、ビジネスパートナー各社と共有しています。このガイドラインは、社会的責任に関する国際ガイダンス(ISO26000)を参考としており、「人権・労働に関する国際的規範の尊重と遵守」を掲げています。本方針を重視して取引先の採用を決定するとともに、採用後のCSRアンケートを定期的に行い、取り組み状況を確認するなど、関係各社の理解と協力が得られるよう積極的に働きかけています。
ANAグループは、人権取組みに対して、人権への知見ある方々から定期的にアドバイスを得ています。
2016年9月には、海外から4名の有識者(デンマーク人権研究所(※3)、前国連人権理事会ワーキンググループメンバー、ELEVATE社(※4))をお招きし、これまでのANAグループの取り組み、人権デューディリジェンスのプロセス、人権リスクアセスメントの実施状況について説明するとともに、今後重点的に取組んでいく人権テーマの適切性等について以下のアドバイスを受けました。これらの意見を勘案しながら、現在、取組みを進めております。
【主なコメント】
※3 デンマーク人権研究所:デンマーク議会の決定により設立され、人権とビジネスに関する知見の収集やツールの開発等を行っている組織。200を超えるグローバル企業やネットワークがデンマーク人権研究所のツールを利用している。
※4 ELEVATE社:サプライチェーンの持続可能性分野において各種のサービス(モニタリングプログラムの開発・導入、サプライヤーの能力開発に関するアドバイザリーサービス等)を提供するグローバルリーディング企業。
2015年2月、2015年12月に実施した日本におけるステークホルダーとの対話に引き続き、2017年5月には、ANAグループが事業を行っているタイとマレーシアにおける、政府、NGO、企業等の様々な関係者が集まる現地でのプログラムに参加しました。現地労働者および現地における移民労働者が抱える課題や、その課題の解決に向けた政府・労働組合・NGOの取組みについて理解を深めました。
<プログラムの風景>
タイ
マレーシア
2017年度も、外部の有識者のアドバイスを積極的に受ける一方で、ステークホルダーとの対話を継続的に実施しながら、人権デューディリジェンス・プロセスの推進、情報の開示等を深化させていきます。