ANAグループが認識する機会とリスク

経営戦略を遂行する上での機会とリスク

グローバルな事業環境に対応しながら持続的成長を追求

目前には東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて計画されている首都圏空港の発着枠拡大や、訪日旅行推進策への期待、ジャパン・ブランドの育成支援など、今後の成長につながるビジネスチャンスが広がっています。

一方、国内外の政治動向、景気の先行き不透明感など、世界の航空需要に影響を与えるリスクも意識していく必要があります。

ANAグループでは、戦略遂行上の機会とリスクを的確に把握し、グローバルな事業環境の変化に対応できる強靭な体質と攻めのスピード経営で、持続的成長を追求しています。

マテリアリティの特定

ANAグループでは、経営理念や中期経営戦略、グループの強みなどをもとに、経営の重要課題(マテリアリティ)を特定しています(図1)。2015年度末に特定した「環境」「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」「地方創生」について、2016年度には、グローバルな動向を踏まえて、関連するNGO / NPO や有識者と対話を重ね、精査を行いました(図2)

東京2020大会の開催を間近に控え、日本企業の「人権」への関わり方に国際社会からの関心が高まっていることから、その取り組みへの重要性を再認識し、対応をより強化していきます。

また、アジアなどの経済成長を背景に、エアライン事業をグローバルに拡大する中で、海外就航地域における「地域創生」にも着目し、活動に反映しています(図3)。

図1 マテリアリティ特定の概念図

マテリアリティ。理念・中期戦略としてANAグループn経営理念や戦略との一貫性・継続性の確認

図2 精査のステップ

STEP1:課題の把握と特定、として社会課題に対するグローバル動向の把握。STEP2:課題の優先順位付けとして、多様なステークホルダーとの会話。STEP3:妥当性の確認として、外部有識者との対話や経営層レベルでの議論

図3 ANAグループのマテリアリティ

本中期経営戦略期間における価値創造の全体像

持続的な成長と価値創造に向け、今般ESG経営を中核に据えた中期経営戦略を策定しました。

社会的価値と経済的価値のつながりを明確にした上で、2022年度における価値創造目標の達成を目指すとともに、SDGsにも貢献していきます。

写真左:ANAホールディングス(株) 代表取締役社長 片野坂 真哉
写真右:慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科教授 蟹江 憲史氏

対談:ANAグループの企業活動とSDGs

企業のESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した事業活動に対する社会からの要請が高まる中、ANAグループが指針としているのが、2030 年にグローバルレベルでの達成を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」です。

ANAグループ全体で取り組むにあたり、SDGs研究の第一人者として国内外の有識者委員会などで活躍され、SDGsの啓発・普及に取り組んでおられる慶應義塾大学大学院教授蟹江 憲史氏に、企業活動とSDGsの結び付きやANAグループに期待することについてお話を伺いました。

SDGsとESG:企業を取り巻く社会と環境の変化

[ 片野坂 ]SDGsとESGという2つのキーワードに代表される動きは、確実に大きな波となって日本企業に押し寄せてきており、今後の企業経営にとっては重要なテーマだと認識しています。社会からの要請であることは当然のことながら、マネジメントがESGに配慮した企業運営を行っているか、という視点での投資行動も見られるようになり、SDGsとESGは企業の価値創造において大変重要な視点になっていると思います。

[ 蟹江 ]企業だけでなく一般の人々にも、「サステナブルなものが大事である」という考え方が浸透してきているように感じます。こうした動きが企業の行動と一緒になると、その動きは加速度的に拡大するものです。当初は普及に時間がかかると思われていたものが、何かブレイクスルーのきっかけを与えられると一気に広がる、そういった動きがSDGsやESGにも感じられます。
SDGsは2030年までに達成すべき目標ですが、例えば障がいのある方への対応、女性の社会的な活躍・進出、地方創生など、社会の関心が高いテーマについては、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催までに達成されるかもしれません。オリンピック・パラリンピックのようなメガイベントには社会の動きを大きく加速させる力があるということです。

[ 片野坂 ]最近パラアスリートと話す機会があり、飛行機を利用する際に不自由に感じている点を聞いて勉強になりました。ユニバーサルなサービスを強化していく上でも、多様なお客様の視点やそれに気づくということも大事ですね。

[ 蟹江 ]多様性を当たり前に受け入れるオリンピック・パラリンピックのようなイベントを経験することで、人々の感覚も社会も変わってくるのでしょう。そういう中でSDGsをツールとしてうまく使った企業活動ができるのではないかと思います。例えば、あらゆるお客様にストレスなく利用してもらえる交通機関にすることで、SDGsの10番にある「人や国の不平等をなくそう」への貢献を見える化する。すると本当に、移動手段や投資先を選ぶ際に、サステナブルだからANA、と思う人も増えてくるのではないでしょうか。利用者数の増加やANAグループに対するご意見の変化などもぜひ、測定して示していただきたいと思います。

[ 片野坂 ]当社グループでは戦略に基づく重要課題について数値目標を立て、毎年進捗をチェックしています。例えば、世界中の航空会社がテーマとして掲げているCO2排出量の抑制、事業所全体のCO2排出量の抑制、また女性の管理職を増やす施策についても数値でモニタリングしています。

[ 蟹江 ]非常に望ましいことです。ただ日本の企業は真面目なので、数値目標を立てて厳守することに意識が集中しがちなのですが、SDGsの目標はもう少し柔らかいものです。少し高いハードルでも皆で目指すということを考えて設定されています。だからこそインスピレーションが湧いてきたり、「明るく元気」になるような力が出てきたりすると思います。あまり固く考えずに目標を立てて取り組んでいただけたら楽しいのではという気がします。

SDGsへの貢献を通じた社会的価値と経済的価値の同時創造

[ 蟹江 ]SDGsを単に「倫理的なもの」「良いことをする」という概念で捉える向きもありますが、もう少し行動経済学的というか、収益に結び付かないと世の中は動かないと思います。収益が上がれば人も集まってきて、本当の意味で持続的な活動になる。これまでの持続可能な開発に関する国際的な取り決めは、ともすると環境の面を強調しがちでしたが、そうすると追加的なコストがかかって「大変だけれど頑張ろう」で終わってしまっていた。SDGsの大きな特徴は社会的価値と経済的価値の両面がそこに加わった点です。経済問題に環境と社会も付随している、という捉え方が非常に大事だと思います。

[ 片野坂 ]持続的、サステナブルという考え方は私も大事だと思います。CSRにしても、国連グローバル・コンパクトの10原則やSDGsの17の目標にしても、非常に重要なのは「成長と持続性」です。企業は成長することで投資家の期待に応えていく、利益成長あればこその社会的な貢献だと思いますので、サステナビリティというのは非常に大事なキーワードだと思います。
また当社グループがサステナビリティや環境をはじめとする社会的な課題に取り組んでいることを、投資家に知っていただくことも大事だと思っています。外部評価である「Dow Jones Sustainability World Index」と「Dow Jones Sustainability Asia Pacific Index」の構成銘柄や「なでしこ銘柄」に選定していただいたことは励みになっています。格付会社もESG投資の重要性を強調している中で、グリーンボンドなども今年はテーマになっていくと見ています。

SDGsへの貢献に向けた取り組みについて

[ 蟹江 ]利用者として機内食を目にすることが多いので、フードロス※抑制への取り組みには関心があります。SDGsの目標でいうと12番(つくる責任つかう責任)でしょうか。番号に紐付けるだけではなく、その目標に向かって取り組みを進めることで、少しずつSDGsの達成にも貢献している、ということを示していただくと良いと思います。

※フードロス:「食品ロス」ともいう。売れ残りや期限切れ、食べ残しなど本来食べられたはずなのに捨てられしまう食品のこと。日本における食品廃棄量は、年間約646万トンと推計され、国連世界食糧計画による全世界の食糧援助量の約2倍にあたる。(出典:農林水産省)

[ 片野坂 ]フードロス抑制への取り組みに関してはANAのシンガポール支店・空港所などが、未使用かつ一定期間保存可能な機内用スナックを有効活用できないかという提案をしてくれたことがきっかけとなっています。2016年10月から現地のケータリング会社やNGOと連携して、現地の学童保育所に寄付するなどの活動を行っています。海外にいるとグローバルな動きが情報として入りやすく、こうした視点での気づきが共有されて具体的な取り組みにつながれば、SDGsの項目に貢献していける、ということですね。4万人を超えるグループ社員がSDGsの世界に入り込むことで気づきがあって、貢献だけでなくビジネスチャンスにつながるかもしれません。

[ 蟹江 ]SDGsの良いところは、ボトムアップで拡散していくところです。トップダウンではなく分散的にやっている取り組みを育成していく。いろいろな人がビジネスの芽を持ち寄って、それを育てていくという動きに似ているかもしれません。

[ 片野坂 ]当社グループでは、「環境」「人権」「ダイバーシティ&インクルージョン」そして「地域創生」という4つの重要課題を特定しているのですが、一方でこれら以外の課題は取り組みが弱くなりがちであり、裾野を拡げて対応していく必要があります。当社グループでは2012年7月から、宮城県・南三陸町で「ANAこころの森」という森林保全活動を続けています。震災復興支援だけでなく、森の間伐材を活用した商品を製作して販売するなど、ビジネスの芽はあるはずです。ビジネスとして収益を上げたり投資を回収したり、ということも念頭に置いて、経済復興への貢献や雇用促進などにつなげることが大事だと考えています。

[ 蟹江 ]SDGsはグローバルな目標でありながら、細かく見てみるとローカルに取り組める課題があるところが特徴です。しかも2つ以上の目標を組み合わせることで、もしかしたらこういうことをやれば良いのかな、と想像力を掻き立てる、イノベーションを起こせる要素が入っている目標ではないかと思います。

[ 片野坂 ]我々の事業活動を通じてSDGsの項目に直接貢献できるのは17のうち7つくらいです。ただこれ以外に貢献できる可能性はあります。例えば9,000人近い客室乗務員が、機内でお客様を観察する力や気づきを航空機を利用した人身取引防止への取り組みにつなげていく、そういう視点を持って仕事をすることの大切さを共有しようとしています。SDGsはそのようなイノベーションの要素を含んでいるということですね。

[ 蟹江 ]本当にその通りだと思います。意識の持ち方を工夫するだけで、行動も変わると思います。

経営トップに期待すること

[ 蟹江 ]まずは目標を立てることが第一ですが、あまり固く考え過ぎずに、皆で「目指すところはここ」というふうに考えることが大切です。希望に満ちた、地球と人間がワクワクするような目標です。もう一つは、航空事業を通して蓄積してきたデータを分析すると、今まで気づいていなかったけれど実はSDGsに貢献していたという要素が見えてくると思います。これを示していくことも重要だと思います。カスタマーとしての期待も込めて、情報を開示するときの透明性もさらに高めていただきたいですね。

[ 片野坂 ]非常に素晴らしいアドバイスをいただきまして、ありがとうございました。私はSDGsやESG、広義のCSRは経営そのものだと考えており、これを突き詰めていきますと、地球の話、人類の話、生物全体の話に通じるのだと思います。
当社グループのCSRの取り組みを少しずつ進歩させてきましたが、やるべきことはまだあると思っています。私もリーダーシップを発揮して、4万人を超えるグループ社員とともに、国内外の就航地域をはじめ、様々な地域や分野に貢献できるよう、日々取り組んでいきます。

重要課題(マテリアリティ)について

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