2013年1月16日(水)、弊社の運航するボーイング787型機がバッテリー関連の不具合により、高松空港へ緊急着陸いたしました。当該便ご搭乗のお客様、ならびに関係者の皆様に多大なるご不安とご迷惑をおかけいたしましたことを改めましてお詫び申し上げます。
本件の後、弊社で実施いたしましたバッテリーへの包括的な安全対策についてご説明いたします。
航空機の電気システムについて、ご説明いたします。
航空機は、コンピューター類の作動や機内の照明、各種エンターテインメントシステムの提供など、様々な場面で電力を必要としますが、通常、これらの電力はエンジンについている発電機で発電されています。ボーイング787型機ではひとつのエンジンに2つの発電機が搭載されているほか、故障時のバックアップ用として、APU※にも2つの発電機が搭載されており、1機あたり合計6台の発電機が装備されていることになります。
※ APU(補助動力装置)・・・Auxiliary Power Unitの略。機体後方に装備されている小型ガスタービンエンジンで、主に地上でのエンジン停止時におけるシステム動力源(圧縮空気や電力)を供給している。ボーイング787型機では電力供給のみに用いられている。
ボーイング787型機を初めとして、一般的に旅客機はメインバッテリーとAPU※バッテリーという2台のバッテリーを備えています。そしてこれらは主に以下の役割を担っています。 いずれのバッテリーも、通常飛行中に使用されることはありません。
<メインバッテリー>
地上における機体電源投入時の初期電源
地上における燃料給油中の電源
発電システム不作動時の補完的役割
<APUバッテリー>
APU(補助動力装置)始動モーターへの電力供給
バッテリーが不具合に至った原因の究明は運輸安全委員会により現在も継続中ですが、その一方で、ボーイング社を中心に業界全体を巻き込んで有効な技術対策検討がなされております。ボーイング社は社内のバッテリー専門家はもとより、米国内の自動車メーカー、バッテリーメーカー、学者など、バッテリーに関する有識者をも交えて徹底的な原因究明を行なう調査チームを立ち上げています。この活動にANAも参画しています。
ボーイング社の調査チームで検討を進めた結果、今回の事象はまずバッテリーの外部(機体側)については不具合原因が見つかっていないことから、原因はバッテリー内部にあるものと推定されています。
バッテリー内部についてはその状況から、以下のプロセスで不具合が発生したものと考えられています。
したがってボーイング社は、業界全体でバッテリー内部のセルの過熱に至るありとあらゆる要因を検討し、整理しました。これらはいずれも結果として以下の4分類のいずれかの不具合の引き金となるものとされています。
真の原因究明が並行して進みまだ特定されない中、確実に安全性を担保した技術対策を策定するため、ボーイング社では洗い出された推定原因の全てに対して対策をとることとしました。したがって今回リリースされたバッテリーシステムの改修は、あらゆる推定要因を根こそぎ一網打尽にする内容となっており、前述した4つの要因をすべて取り除くものとなっています。
また不具合の起点となるセルの過熱防止にとどまらず、セル間の伝播、想定外の事象が発生した場合の封じ込め対策と3重の対策とすることで更に安全性を高めた改修内容となっています。
より具体的には、「考えられるすべての原因」に対する対策として「不具合の発生・伝播の防止」対策としてのバッテリーおよび充電器の改良を、さらに「想定しえなかった事態が発生しても封じ込める」対策として格納容器の設置が行なわれます。
<3重の対策コンセプト>
今回出された改修の内容は以下の3つが柱になっています。
格納容器の設置
バッテリーの改良および充電器の改良により不具合の再発防止を図ることが主眼となります。しかし、それでも万一バッテリーに不具合が発生した場合には、その不具合をバッテリーだけに封じ込め、煙などを機内に充満させないように、バッテリー全体を金属の覆いで囲うことにしています。これにより、万一煙が発生しても他のシステムに影響を与える可能性がなくなるので、運航の安全を脅かすことはありません。
今回出された改修内容は、
当社もボーイング社とともに検討プロセスに関与し、当社のエアラインとしての経験・知見を反映させたものとなっている
当社としても独自に国内のバッテリーメーカー、電気メーカー、素材メーカー、研究機関など10数社へヒアリングを実施し検証した内容とも合致している
ことから、当社としてもボーイング787型機の運航再開に向けて必要かつ十分な改修になっており、B787をお客様へ安心して提供できると判断しております。
当社ではバッテリー改修後の航空機について、より安心してご利用いただくために、運航再開後も以下のプログラムを実施いたしました。
1. バッテリー改修の効果確認
一定期間使用したバッテリーが健全に機能していることを実証するため、一定時間毎に機体から取りおろして確認を行ないます。健全性の確認に際してはボーイング社などメーカーの協力のもとに行ないます。
2. バッテリー作動状態のモニタリング
安全性を維持するために、運航中のバッテリーの作動状態をモニターし、通常と異なる兆候を察知したらすぐに地上の整備部門に通知する仕組みを導入しました。
改修の実績と、改修後の運航実績をご案内します。
改修の実績
改修後の運航実績
Q . 不具合の原因が特定されていない中で、改修し運航再開をして大丈夫でしょうか?
A . バッテリーの過熱に至る、想定されうる限りの要因を洗い出し、それら全てに対して包括的に対策を実施しています。
Q . 改修内容はどのようなものですか?
A . ①バッテリーの過熱を防止するなどの「バッテリーの改良」、②充電方法を改善するなどの「充電器の改良」、そして万が一、過熱するようなことがあっても不具合をバッテリー内に封じ込めるための「格納容器の設置」という3点が主な改修内容です。
Q . どのような手続きで安全性を確認し、改修したのですか?
A . まず、ボーイング社がバッテリーの安全性を担保できるような改修プログラムを策定し、米国連邦航空局が当該改修プログラムに対して安全性を確認した上で承認することになります。日本では、国土交通省がこの改修プログラムを確認し、本邦航空会社に対して改修実施後のボーイング787型機の運航を認めます。航空会社は、当該改修指示書に従い改修を実施します。
Q . 改修の内容は、他社と同じですか?
A . 同一の指示書に基づいて改修を実施しますので、他社と同じです。
Q . もし、飛行中にバッテリーが使用できなくなったら、どうなるのでしょうか?
A . 飛行中はエンジンに複数装備されている発電機から電力供給しているので、バッテリーの機能を喪失しても、運航の安全性には影響ありません。
Q . バッテリー以外のトラブルが報じられていましたが、それらについてはどうなっていますか?
A . 燃料漏れ、油漏れ、ブレーキトラブル、フロントガラスのトラブルなど、過去に発生した不具合についても、すでに改修や点検を実施しています。