湧水の底力
北海道の道央を流れる尻別川。この川の魅力は羊蹄山を抜きに語れない。水源は千歳川の水源でもあるフレ岳だが、喜茂別町市街地付近を過ぎ、羊蹄の山裾を沿い始めると、豊富な湧水を集めて流れる。羊蹄山は標高1898m。美しい円錐形であることから、蝦夷富士と呼ばれる。富士山の周囲に湧き水が多いのと似ているが、その水を効率よく集め、大河になって日本海に注ぐのがこの川の特徴だ。
支流にも湧水が多く、水質が抜群にいい。一級河川の水質現況においては、ほぼ毎回水質日本一に選ばれている。広大な農業地帯を流れ、水力発電の要所とされてきたことから、ダムが多く、取水と放水が各所で繰り返される。それでもなお豊かな河川環境を保ってきたのは、豊富な湧水があってこそなのだろう。周辺の河川と比べ、水温、雨後の水位とも変動は小さい。「尻別なら大丈夫」。道内の釣り人はこの川に、そんな安心感をもっている。
魚種多彩でグッドコンディション
生息する魚種は豊富。上流から見ていくと、まずはエゾイワナ。古くからダム開発が繰り返されてきたことから、上流域には陸封型が多い。これと同じ理由で、降海型が多い道内では珍しく、陸封タイプのヤマメもいる。このヤマメが、良好な河川環境に支えられ大型に育つ。短い夏に急成長するヤマメは幅広で、素晴らしいファイトを見せる。
そのほか、ヤマメの勢力圏から下流にはニジマス。支流にはオショロコマも生息する。一部エリアにブラウントラウト。海とつながるエリアにはアメマス、そしてアユ。北海道に生息するほとんどの淡水魚種がいるといえるかもしれない。
上、中、下流、それぞれ多彩な表情を見せ、多様なスタイルの釣りが楽しめる。最上流から河口付近まで、どこにでもサケ科魚類がいて、多くの釣り人のニーズに応えてくれる。その懐の深さは北海道内でもトップクラスといえる。
近年、大型のダムにも魚道の整備が進み、少しずつ、魚類の移動可能範囲が広がりつつある。長く見られなくなっていたエリアでサクラマスが確認されるなど、各所でそんな情報が聞かれるようになってきた。
実現したいイトウの夢
尻別川は過去、イトウの有名釣り場でもあった。当時はメーターオーバーも数多くキャッチされていた。しかし、度重なる河川改修などさまざまな要因により、絶滅の危機とされるレベルにまで生息数を減らしてしまった。これを憂えた地元有志が立ち上がり、『尻別川の未来を考える オビラメの会』が2001年、『オビラメ復活30年計画』という取り組みを始めた(オビラメはイトウの別名)。尻別川産親魚を飼育し、人工授精による稚魚を放流。それにより自然繁殖を復活させようという試み。放流は2004年に実現し、近年、その成果が報告されつつある。
近い将来、釣り人のサオをイトウが絞る日が来るかもしれない。もしその幸運に恵まれたなら、1度は絶滅の危機に瀕し、有志の多大な尽力によって復活しつつある魚であることを、思い出していただきたい。そして、敬意をもって、やさしくリリースしたい。そんな日が来ることを願い、多くの釣り人が協力してくれることを期待したい。
この釣り場へのアクセス
新千歳空港からレンタカーでニセコ方面へ
釣り場情報
〈尻別川/ヤマメ、ニジマス、アメマス(エゾイワナ)、イトウ〉
シーズン | 北海道内水面漁業調整規則により、4~5月ヤマメ禁漁。資源保護水面の支流目名川はヤマメ周年禁漁 |
問合先 | 新千歳空港からレンタカーを利用。支笏湖モラップ方面へ向かい、R276経由で、美笛峠、広島峠を越えて上流部へ。喜茂別町内の上流部まで、約80㎞、約1時間30分。 |
- 釣り場情報は2020年4月現在のものです。