2023/10/20更新
皆さま、こんにちは。ボーイング767機長の廣橋です。
この度ボーイング767就航40周年を迎えるにあたり、私が現在乗務している愛すべき飛行機ボーイング767(以下767)についてご紹介いたします。
さて、皆さまは767にご搭乗された際に、スムーズな着陸ではなく、多少衝撃を感じる着陸を経験されたことはありますか?
“いつもスムーズで素晴らしいよ!”と仰ってくださるお客様もいらっしゃいますが、実際には多少の衝撃を経験をされた方もいらっしゃると思います。
他機種よりも、767の着陸は難しい点があると思います。
では、なぜ767の着陸は難しいのでしょうか?大きく分けて、理由は二つあると思います。
一つ目の理由は、着陸装置(主脚)の衝撃吸収能力が他機種より低いということです。車のサスペンションで例えるなら、767は普通車のサスペンション、ボーイング777(以下777)は大型車、そんな感じでしょうか…。
そのため、767でスムーズな接地をするためには777よりも少ない降下率で接地しなければなりません。
777では200ft/minの降下率で接地してもそこそこスムーズな着陸になりますが、767では難しいと言えます。
767では降下率をなるべく100ft/min以下に抑えて着陸に臨む訳ですが、降下率を低く抑えると、そこでまた問題点が一つ発生します。
それは、接地点が伸びやすくなるという問題です。
滑走路が長ければ全く問題ありませんが、滑走路の末端まで、もしくは離脱したい誘導路までに確実に停止できるよう私たち運航乗務員は決められた範囲内に接地しなければなりません。
ある程度の降下率に抑えたら、たとえ降下率を100ft/minに抑えられなくとも安全性を最優先に考え、所定の範囲内に強制的に接地させることとなります。
他機種でもこの考え方は一緒ですが、767ではこの所定の範囲内にスムーズに接地させることがより難しくなっています。
もう一つの理由は、フライバイワイヤー(fly by wire)(エアバス系、777,787で採用されている機能)でのコントロールでないということです。
フライバイワイヤー機では、コンピューター制御で飛行機の姿勢を補正してくれる機能が付いています。
着陸時、どの場面でこの機能が働くかというとパワー(THRUST)を絞った時です。パワーを絞った瞬間、エンジンの取付位置の関係から機首が下がろうとする力が働きますが、フライバイワイヤー機ではその力を打ち消す力が働き機首は下がりません。(その後、スピードが減ってくるとフライバイワイヤー機といえども徐々に機首は下がってきます)
767はフライバイワイヤー機ではないので、まずパワーを絞った瞬間しっかりと操縦桿を支えます。スピードの減速に伴い、さらに操縦桿を支え続け接地します。この支える力が大きく、重く、またコントロールするさじ加減が重さゆえに難しいのです。
これら二つが、767での着陸に技量を必要とする主な理由です。
、767の大変な点は、着陸だけではありません。着陸に限らず、上空でのすべての場面での操縦も他機種より難易度が高いと感じています。
また、他機種で装備されている最新装備がありません。そのため、他機種では自動でモニター・制御されているものが、767では私たち運航乗務員でモニター・制御・管理する必要があります。
767は少し手の掛かる飛行機ですが、まさに玄人好みの職人気質をくすぐる、そんな飛行機でもあります。
ここまで767の難しい面ばかり紹介してきましたが、実は優れたところもたくさんあります。
一つ目は、いざという時には私たち運航乗務員の意志通りに動いてくれる飛行機という点です。オートマチック車だとなかなか意志通りにギアが変わってくれない時がありますが、マニュアル車だと自分ですぐギアチェンジできるのと同じ感覚です。
コンピューターを介さない分、操作自体は難易度が高くても自由度が高いのです。
次にエンジンのパワーですが、これは特筆ものです。車で言うパワーウェイトレシオ、これはエンジンのパワーを自重で割った値ですが、おそらく現行機種で最も優れていると思います。加速が優れているため、離陸時の上昇率が高くなります。巡航高度にいち早く到達でき、揺れる高度帯からも早く離脱できます。そういった面からも自由度が高い飛行機と言えます。
最後に、装備されているシステム関してですが、整備士の皆さんの日頃の努力の成果も当然ありますが、40年という年月を経て成熟し故障が非常に少ない飛行機です。
また、飛行機の完成度の高さもなかなかなものです。完成度の高さを実感できる一番の例がモードコントロールパネルのデザインです。モードコントロールパネルとは飛行機の針路、高度、速度、上昇降下率、飛行方式を選択するパネルです。そのパネルにあるスイッチ類の配置は767から始まり、後発のボーイング747-400、ボーイング777、ボーイング737NG、ボーイング787と現在にいたるまで引き継がれ、デザインは全く変わっていません。このことからも、767の完成度の高さがうかがえるはずです。
皆さま、767のご紹介をしてきましたが、767の良さをおわかりいただけましたでしょうか?
私たち運航乗務員は、どうしても自分が乗務している飛行機が一番好きになってしまう傾向があります。プライドもありますが、自分の乗っている飛行機が可愛く愛おしくなってしまうのです。
他機種に乗務している運航乗務員も自分の乗務している飛行機が一番好きな人が多いでしょう。その人たちからすると、もしかすると767はただの古い飛行機かもしれません。でも、私たち767の運航乗務員にとって、767は手の掛かる子供ほど可愛いのと同様、本当に愛おしい飛行機なのです。
どの機種においても、私たち運航乗務員のフライトへの想いは一緒です。それぞれの機種のプライドを持ち、安全運航を死守しつつ、お客様に快適な空の旅をお届けできるよう日々努力しております。
今後ともANAを応援、ご愛顧いただけたら幸いと存じます。
“Congratulations on B767‘s 40th Anniversary !!”
(B767乗員部 訓練課 教官 廣橋 航)