「安全と人への投資」を成長の原動力に
ANAホールディングス(株)取締役会長・取締役会議長 伊東 信一郎 / ANAホールディングス(株)社外取締役 山本 亜土

新中期経営戦略では、中長期的な成長戦略に加えて「安全と人への投資」を掲げています。
エアライン事業を主軸とするANAグループにとって欠かすことのできない視点について、
運輸業界で長く経営に携わった経験を持つ山本 亜土社外取締役にご意見を伺いました。

安全について

伊東:2017年度の業績は、堅調な需要にも支えられて着実に向上しました。これは高い品質・サービスレベルはもとより、安全があってのことだと考えています。当社は「安全は経営の基盤であり社会への責務である」というグループ安全理念を掲げていますが、同じ運輸業界における経営者の立場から、安全に関する当社グループの現状や課題について、ご意見をお聞かせください。

山本:ANAグループはこれまで環境の変化に対応しながら、意欲的に成長戦略を練り上げ、着実に実績に結び付けてきました。運輸業界においては何を差し置いても安全こそが経営の基盤ですが、「2018年から2022年度 中期経営戦略」でも安全を最優先課題として取り上げ、これを深化させるための工夫が加えられていると思います。
航空業界は職場が全世界に広がっており、鉄道と比べて多額の安全投資をして人をバックアップするためのシステムを整えています。ただし、システムや組織が万全でも、最後は人の力で安全を担保するということは鉄道業界でも同じです。私はよく現場を視察しますが、機長と副操縦士などの職務上の上下関係にとらわれず、対等でフェアーな会話ができていると感じます。安全を守るためには、豊かなコミュニケーションや働きやすい職場風土が大事だと考えます。

安全を守るためには、豊かなコミュニケーションや働きやすい職場風土が大事(山本)

伊東:当社グループはアサーション活動を積極的に行っています。上司の間違いを部下が自然に指摘できるように「アサーション」することを宣言してから仕事を始めます。この運動はもっと浸透させる必要があり、一生懸命対応しているフロントライン部門に敬意を払わなければいけません。
また、「安全教育センター」での活動を大切にしています。4万人超のグループ従業員が、過去の事故を風化させないための教育を受けたり、ヒューマンエラーが起こる過程を体験することで、安全に対する意識を高めています。日々の業務を遂行する中で、安全を脅かす事象を未然に防止していくための地道な取り組みが大事だと痛感しています。

山本:整備関連の工場にも行きましたが、若い社員がしっかり受け答えしてくれて、技術職のプロとして自信と矜持を持って仕事にあたっていることを肌で感じます。現場で聞いた話が取締役会でも採り上げられていることから、従業員の声が経営層としっかり共有されていると実感しています。

人財について

伊東:安全はもちろん、品質やサービスといった競争力の源泉を担っている「人」への投資は重要なテーマです。事業の拡大を継続している中、多数の社員を採用・訓練していますが、若年層が数多くフロントラインに配置されていることで、サービスの未熟さについてお客様からご指摘をいただくことがあります。2018年度は、原点に立ち返って品質やサービスなどの経営基盤をしっかり固めていく方針です。

山本:国際線事業を急速に拡大している中、お客様の満足度を高めていくことは容易ではありません。お客様の期待に応えていくためには、グループ全体で「人」の教育に投資を振り向けていくことが鍵となるので、総合訓練施設を新設することは大変良いことだと思います。海外においては、現地スタッフの確保や日本人によるサポート体制の整備を進めながら、グローバルで人財を育成していくことが必要だと思います。

伊東:より良いサービスを提供するには、トップの考えをしっかり浸透させた上で、従業員がお客様への想いを持って仕事をする姿勢が重要です。新しい総合訓練施設では、様々な職種が集まって、互いの連携を意識しながら定時性や快適性を含むサービス品質の向上を図っていきたいと考えています。「あんしん、あったか、あかるく元気!」を共通の価値観として受け継ぎながら、グループ総合力を底上げしていきます。

山本:ANA's Wayを中心とした人財育成への取り組みにより、努力と挑戦を求めていくことは、この先のグローバル展開に不可欠です。かつて「野武士集団」といわれたように、ANAグループは果敢に挑戦している企業というイメージがあります。今は組織が巨大となり、業績も安定している中で、昔から培ってきたバイタリティや挑戦心をDNAとして後世に伝えていくことも課題です。

培ってきたバイタリティや挑戦心をDNAとして 会等を充実させていくことが効果的ではないでしょうか。
後世に伝えていくことも課題(山本)

伊東:「現在窮乏、将来有望」という創業者の精神は忘れてはいけないと思います。これまで当社グループは様々なことにチャレンジしながら、厳しい時代を乗り越えてきました。私の社長時代にはリーマンショックを経験しましたが、航空業界は一歩間違えると経営上の困難に直面します。そのような逆境でも立ち直れたのはお客様からの信頼を築いてきたからであり、日頃からサービス品質を磨き上げていくことが基本であるということを肝に銘じなければなりません。人財確保という課題に対して、業務の改善や効率化も含めて生産性を向上させていく取り組みが不可欠だと思います。

取締役会の機能強化に向けて

伊東:これらの取り組みを着実に遂行する上で、ガバナンスの強化を図るため、取締役会の機能をますます充実させることが重要です。私が経験してきた限り、以前に比べ格段に活発な議論がされるようになり、貴重な意見をいただいています。今後に向けて改善点や課題などありましたらお聞かせください。

山本:グループ経営戦略会議との権限見直しに留まらず、各専門分野から様々な意見が飛び交って活発に議論されていると評価しています。事前の資料などが充実しているため、当日の説明が以前より深く理解できるようになったことが、議論の活性化に結び付いていると思います。

伊東:議題はもっと整理する余地がありますね。中期経営戦略をテーマにする際など、航空業界の現況に対して認識を一致していただくための議論がもっと必要だったかもしれません。時間の制約もありますが、現場の状況を見たり話を聞いていただく機会を増やしていきたいと考えています。

現場の状況を見たり話を聞いていただく機会を増やしていく(伊東)

山本:グループの中で存在が大きいANAの状況をより認識することも重要だと思います。オペレーションセンターへ訪問して直接社員と話をする機会がありましたが、会社の仕組みが理解しやすく、課題についても素早く把握することができました。安全と人を含め経営上の課題を議論する上でも、日頃から社外役員への情報提供や教育、役職員と交流の機会等を充実させていくことが効果的ではないでしょうか。

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