
都会では見られない満天の星空を、息子に見せたい

息子が小学生になった夏休みには、家族でキャンプに行こうと考えていました。
自分が同じ年齢の頃、夏になると父はクルマにテントを積んで、川のあるキャンプ場へ連れて行ってくれました。峠道を数時間走り、さらに未舗装の道を上がっていくと、古びたバンガローとテントを張るスペースしかない山の中へ到着。重たい鉄板を河原まで担いでバーベキューをしたり、水加減や火の強さを間違えるとお粥のようなご飯ができあがる飯盒炊さんをしたものです。
面倒や不自由さも、自然のなかでは楽しみに変えられると教えてくれたのは父でした。
飯盒で上手に炊けた白米の一粒一粒は甘くて美味しいこと。川底の小石の一つ一つがくっきりと見えるほど、透き通った川の水は冷たいことなど、息子にも自然のなかで体験させたいことがたくさんあります。なにより、真っ暗な森の中でテントを出ればそこに広がっていた「星が降る夜空」を、息子が小さいうちに見せてやりたいのです。しかし、以前からキャンプの話を持ちかけるたびに、妻は決まってこう言いました。
「アウトドアなんて、虫が出るから絶対にイヤ」
「テントで寝る? そんなの腰が痛くなるからムリ」
大都会でマンション育ちの妻にとっては、せっかくの家族旅行でわざわざ不便さを味わうのは納得がいかないようです。家族で一人でも不機嫌になると、旅も思い出も台無しになるので、父と行ったようなキャンプは、今の我が家には少々難しそうでした。
そこで決めたのは「飛行機で行くキャンプ」です。それも、テントを設営しなくても宿泊できる施設つきのキャンプ場を選びました。
クルマで山道を走る必要もなく、私たちが泊まったのはちゃんとベッドで寝られる海辺のヴィラ。太陽が沈んだら波の音しか聞こえない庭には、テントではなくハンモックがあります。島野菜をふんだんに使ったBBQは、焼いた野菜の甘みがしっかり感じられ、重たい鉄板を運ばなくてもいいだけでなく、妻が苦手な虫に遭遇することもありません。
「キャンプっていうけど、ここは海辺のリゾートよね」
意外なことに、妻がいちばん満足そうでした。
夜のテラスに出て空を見上げると、暗闇に目が慣れてくるにつれて一つ一つ星が増えていく感覚になり、あっという間にぎっしりと星で埋め尽くされた夜空が広がります。
「パパ、星って本当はこんなにいっぱいあったんだね」
幼い頃に父が見せてくれた「宇宙の奥行きを感じられる星空」は、ここで息子に見せてあげることができました。普段は目に見えないものが本当は大切なのだと、父親として教えてあげられた気もしています。
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メインビジュアルは、北海道・AKAIGAWA TOMO PLAYPARKキャンプフィールド一例(イメージ)です。