

インド洋と太平洋を全長4352キロで結ぶ3泊4日

オーストラリアには、大陸を東西と南北に結ぶ2本のラグジュアリーな寝台列車が走っています。運行しているのは、オーストラリアの鉄道会社「グレート・サザンレイル」社。1つはシドニーとパースを東西に結ぶ大陸“横断”列車「インディアン・パシフィック号」、もう1つはアデレードとダーウィンを南北に結ぶ姉妹列車の大陸“縦断”列車「ザ・ガン鉄道」です。今回ご紹介するのは「インディアン・パシフィック号」。その名が示す通りインド洋と太平洋を結び、大陸の両端4352キロを3泊4日かけて走ります。
旅の起点となるのは、シドニーのセントラル・ステーション。午後2時55分の出発に備えて少し早めの午後1時半ごろに到着すると、列車は2番線と3番線に分かれてホームに入線していました。

機関車を別にすると、この日の編成は前から乗客の乗用車を載せた「キャリアカー」、電源車、乗務員用車両、乗客の荷物を保管するラゲッジ車両、食料や備品を積んだ倉庫車両、全席がシート席の「レッドサービス」車両、個室にソファベッドが設置された「ゴールドサービス」が6車両、ラウンジ車両、2両の食堂車、ラウンジ車両、再び「ゴールドサービス」車両、上級クラスに位置づけられている「プラチナサービス」車両、乗務員用車両、電源車の全20両で、これを2台のディーゼル機関車で牽引します。
全長はなんと520メートル。取材時は冬期のオフシーズンだったためこれでも短いそうで、平均は30両編成で全長774メートル、これからの夏の観光シーズンにはさらに客車が増えて全長は1キロを超え、総重量は1400トンにもなるそうです。

ひとり旅におすすめの「ツインタイプのシングルユース」
私が乗り込んだのはプラチナ車両の手前に連結された「ゴールドサービス」のG号車。「ゴールドサービス」には1車両に18室が配置されたシングルタイプと、1車両に9室が設置されたツインタイプがありますが、シングルタイプは少々手狭。ひとり旅ならおすすめは、ツインタイプのキャビンのシングルユースです。「ゴールドサービス」の乗客は、25キロの荷物をふたつまで持ち込めます。

さらに贅沢な時間を求めるなら、1車両に5室のみの「プラチナサービス」車両を。そのほか予約状況に応じて、1車両をまるごと使った最上級の「プライベートサービス」車両や、「ゴールドサービス」のツインタイプの2倍の広さがある「ゴールドサービス スーペリアキャビン」の設定もできるそうです。

ホテルのような滞在を楽しめるプライベートキャビン
「ゴールドサービス」のキャビンには、ソファベッドのほか折りたたみ式のテーブル、キャビネット、シャワー付きのプライベートバスルームが備えられていて、ホテルに泊まるのと遜色ない快適な滞在を実現しています。オリジナルのアメニティは適宜補充され、ふかふかのタオル類の用意も豊富。キャビンは担当クルーが毎日清掃してくれます。

食事は1日3回、ダイニングカー「クイーン・アデレード・レストラン」でとることができます。あまり知られていないのですが、外界から隔絶された海に囲まれた大陸で、また入植が遅かったためまだ土地の開発が進んでいないオーストラリアは、上質な食材に恵まれているのです。ダイニングで提供されるのは、そんなオーストラリアの新鮮な食材をたっぷり使ったモダン・オーストラリア料理が中心。ランチとディナーは3皿構成で、前菜・メイン・デザートをそれぞれいくつかのメニューから選ぶプリィクスコースのスタイルです。

ドリンクは特別な銘柄のワインやカクテルを除き、スパークリングワインを含めビールや料理に合わせたオーストラリアワインなどが、食事中に限らずいつでもフリーフロー(つまり飲み放題)なのも、お酒が好きな人にとっては嬉しいところです。

夕陽に染まる真っ赤な空と大地の絶景は必見!

列車が停車する日中は、アクティビティとして「オフトレインツアー」も用意されていますが、せっかく個室をとったなら、何もせずに空白の時間を満喫するのもまた乙なものです。なんといってもこの時代に「アウトバック」と呼ばれるオーストラリアらしい赤銅色の大地では、ネットも電話もつながらないのですから。車窓からときどき見えるのは、干からびた「ソルトブッシュ」という低木や死んだカンガルーの白い骨。赤い大地が夕陽を浴びてさらに赤く染まる一瞬を、自室の窓から眺めるひとときは何ものにも代えがたい体験です。

さて、鉄道ファンが見逃せないのは、給油のために停車する「クック駅」です。この駅は、ナラボー平原に伸びる“世界最長”といわれる全長約480キロの直線区間上にあり、地平線のかなたまでまっすぐに続く線路を見渡すことができます。ちなみに“ナラボー”とは、オーストラリアの先住民族アボリジナルピープルのことばで“何もない”という意味とか。
世界中から集まった乗客は、当たり前ながら旅が大好きな人ばかり。ひと晩もすればラウンジ車両では朝食後から深夜まで、お酒を片手にチェスをしたり、旅談義に花を咲かせたり、ちょっとした社交場ができあがります。

低い視点から眺めるオーストラリア中心部の風景は、鉄道旅でなければ見られない絶景。空と大地が真っ赤に染まり、溶け合ったその境界線へ向かって一直線に疾走する奇跡のような一瞬を、いつか体験してみませんか。