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    掲載日:2020.10.29

    ぽつんと街に現れた どこか懐かしい藤森照信の建築物をめぐる

    屋根が草で覆われていたり、建物が宙に浮いていたり、建物が曲線でかたどられていたり、シマウマ柄だったり、銀色に光るトタンの壁だったり…、自由自在に建物を操る建築家・藤森照信。同じく建築家の隈研吾氏は、藤森氏のデビュー作である建造物を見て「見たことがないのに 懐かしい」と評しました。現代の日本住居とは、明らかに姿が異なるのに、なぜ“懐かしい”という潜在的な記憶と結びついてしまうのでしょうか。藤森氏の不思議が詰まった建築の謎を紐解きながら、実際に中に入れて見学も可能な建築物をご紹介していきます。

    ラ コリーナ近江八幡(滋賀県)

    メインショップ<草屋根>
    メインショップ<草屋根>

    豊臣秀次によって城下町として栄え、現在も琵琶湖のせせらぎと緑豊かな自然が共生する近江八幡。2015年、滋賀県近江八幡市創業の和菓子店「たねや」と洋菓子店「CLUB HARIE」を展開する老舗菓子屋「たねやグループ」の本拠地として、ラ コリーナ近江八幡は建てられました。

    約37,000坪もの広さを誇る敷地には、和・洋菓子を扱う各店舗やカフェに本社、水田に棚田が共存しています。どれも藤森氏により設計されました。
    メインショップの<草屋根>は、その中でも最初にでき上がった建築物です。

    藤森氏は自身が設計する建築に、「建築緑化」というテーマを掲げています。
    美術家の赤瀬川原平氏・イラストライター・エッセイスト南伸坊氏らと行っていた「路上観察学会」というフィールドワークの中で、地面から伸びる蔦に覆われたビルを見つけて、自然と建築の融合への興味が膨らんでいったんだそう。“草屋根”の名の通り、緑に覆われた屋根は、後ろにそびえる八幡山と一体となり、建物自体も山なのか?という錯覚に陥ってしまうほど。自然の中へ溶け込んでいっているかのような、不思議な光景が広がっています。

    メインショップ<草屋根>の2階にあるバームクーヘンカフェ
    メインショップ<草屋根>の2階にあるバームクーヘンカフェ

    メインショップ<草屋根>の中を見てみましょう。2階にあるカフェの天井には、無数の黒い点が広がっています。実はこれ、大きさや割れ方の異なる炭を、白い漆喰の壁に貼り付けているんです。炭の凸凹が消音効果を与えます。貼り付け作業は藤森氏を先導に、社長はじめ従業員で進められました。それぞれ自由に貼られているため、炭が密集した箇所や、貼り付けが荒い箇所などさまざま。藤森氏は工事の際、こういったものづくりのワークショップを開き、ボランティアの手や自分自身の手を建築物に加えます。そうすると、ぐっと愛される建物に育っていくのだとか。

    カステラショップ<栗百本> 外観
    カステラショップ<栗百本> 外観
    カステラショップ<栗百本>
    カステラショップ<栗百本>

    カステラショップ<栗百本>では、カステラと色合いがぴったりな栗の木が100本以上も使用されています。店内はまるで森のよう。とても落ち着く空間が広がっています。緑色の背もたれがかわいらしいデザインのイスも、藤森氏による設計です。

    今やフォトスポットとしても大人気なスポットのラ コリーナ近江八幡。5月には田植えをする敷地内中央の田んぼが、9月頃には黄金色に輝く稲穂となり、美しい近江原の風景が楽しめます。冬は雪が降ったときなどはメインショップが真っ白になり、幻想的です。春夏秋冬いつ訪れても魅力的な場所となっています。

    ラ コリーナ近江八幡

    住所:滋賀県近江八幡市北之庄町615-1
    TEL:0748-33-6666
    営業時間:9:00~18:00
    URL:http://taneya.jp/la_collina/

    空飛ぶ泥舟・高過庵・低過庵(長野県)

    <空飛ぶ泥舟>(移築前) photo by 藤森照信
    <空飛ぶ泥舟>(移築前) photo by 藤森照信

    2010年、藤森氏の出身地でもある長野県茅野市に、宙に吊るされた不思議な茶室<空飛ぶ泥舟>が現れました。もともとは、茅野市美術館で開催された藤森氏の企画展のために、ワークショップ参加者の市民や地元の職人、そして藤森氏によって制作されたものです。
    茶室の形のイメージは、はじめはクジラだったそうですが、落下しないよう横幅を狭めた結果、フグのような丸々とした形に仕上がりました。今ではそんなかわいらしい姿が、女性や子どもに大人気となっています。

    茶室は意外と広く、最大8人入ることができます。ハシゴを架けて、ちょっと怖いなと思いながら、入り口からお邪魔します。入ってしまうと、緊張が解け、訪れた人々は、雑談に華が咲くのだとか。今までいた世界とは切り離された茶室の窓から覗く景色は、ビルから眺める景色とは違い、新鮮な姿を映し出します。

    左 <低過庵>、右 <高過庵> photo by 藤森照信
    左 <低過庵>、右 <高過庵> photo by 藤森照信

    <空飛ぶ泥舟>が美術館から移築されたのは、藤森氏の実家の畑があった場所。建築実験場として使われていたこの畑に、2004年、自分用の茶室として<高過庵>(写真右)が建てられました。茶室を支えているのは、高さ6m50cmの2本の栗の木です。1本では危ないし、3本では面白くないということで、2本になったのだとか。
    茶室特有の小さな出入り口を「躙り口(にじりぐち)」といいますが、<高過庵>の入り口は、床下にあるため、「躙り上り口(にじりのぼりぐち)」と藤森氏は命名しています。ハシゴを使って「躙り上り口」から茶室に入ると、窓からは藤森氏が生まれ育った茅野市の景色が広がります。

    国の特別史跡「尖石石器時代遺跡」がある茅野市は縄文文化の中心地と呼ばれています。畑に土器片や黒曜石の矢じりが落ちているような場所で生まれ育った藤森氏は、少年の頃から原始時代の家をその当時の道具や方法を使って建てることが夢でした。原始的な住居の普遍的な姿に魅了された藤森氏は、縄文時代でも使われていた高床式住居の発想を大胆に捉え、<高過庵>を設計したのです。

    <低過庵> 内部 photo by 藤森照信
    <低過庵> 内部 photo by 藤森照信

    暑い夏は風通しの良い高床式住居、冬は寒さを凌ぐ竪穴式住居で暮らしていたと言われている縄文人。<高過庵>が建てられた13年後の2017年に<低過庵>は、竪穴式住居をルーツに建てられました。
    銅板ぶきで縄文風の屋根は、水平にスライドして開かれます。土の中では、包まれているような感覚があり、気持ちが次第に落ち着いていくんだそう。暖炉の火とろうそくのわずかな明かりのもと、当時の人々の姿に思いを馳せながら、静寂の中でお茶を楽しむことができます。

    3つの茶室は普段は非公開ですが、特別に中へ入ることのできるツアーがあります。ぜひそちらを利用して茶室の中の遮断された世界を体験しに、足を運んでみてください。

    • 現在は新型コロナウィルスの影響により受付を中止しております。最新の情報はウェブサイトをご確認ください。
    空飛ぶ泥舟・高過庵・低過庵

    住所:長野県茅野市宮川389-1
    URL:https://chinotabi.jp/(ツアー開催元:ちの旅)

    多治見市モザイクタイルミュージアム(岐阜県)

    モザイクタイルミュージアム 外観
    モザイクタイルミュージアム 外観

    空から落ちてきたUFOのように、周りの住宅街と比べるとかなり異質な雰囲気を漂わせるこの建物の正体は、岐阜県多治見市の特産物であるモザイクタイルを収集した、モザイクタイルミュージアムです。タイルの原料を採取できる「粘土山」を思わせる形が特徴的。右端にある入り口までの前庭は、すり鉢状に沈んでいます。小さな穴から土の中に入っていくような感覚を起こす、不思議な入り口となっているのです。藤森氏がこれまで手がけてきた建築における大きなテーマの「建築緑化」の挑戦でもあります。

    屋根には、曲線を描く建物の、前後の輪郭に沿うように松の木が横一列に植えてあります。屋根の上に植えられた松の木は、実際の採土場の上にも生えているのだとか。

    もうひとつ注目したいのは、壁の材質です。まるで自然の土が積み上がったかのような見た目をしていますが、中身はしっかりとした鉄筋コンクリート造でつくられています。「科学技術を自然で包む」この技法…藤森氏が建築法として目指しているひとつです。コンクリートの上に、土壁のような表面加工を施し、そこに地元のタイル工場や現在も食器を作っているメーカーさんからもらってきた陶器タイルの破片やお茶碗のかけらなどを点々と埋めています。地元の人の協力を仰ぎながら、地元の特産を魅せるための博物館がつくられていったのです。

    ミュージアム 4階 第1展示室
    ミュージアム 4階 第1展示室

    建物の中はなんと4階建て。入り口に入ると、まず4階までのぼります。4階は地元の有志が約20年かけて収集したモザイクタイル張りの流しや浴槽、壁などから、藤森氏がセレクトしたものが並ぶ展示室。「タイルすだれ」の設計も、藤森氏によるものです。ワイヤーに貼り付けられたモザイクタイルが、ぽっかりと開いた穴へ、空を目指し広がっていきます。展示場内を照らす自然光は、まるで展示物のスポットライトのような役割を担うこともあります。人々の暮らしを彩ってきたタイルの魅力を、美しく引き出します。

    モザイクタイルはまだ生産されて100年にも満たない多治見市の特産品です。施釉磁器モザイクタイルの発祥地であり、日本一の生産量を誇る、街の自慢を存分に紹介している美術館。藤森氏の建築を中心に、地元の人の力が結集された、愛らしい場所になっています。

    多治見市モザイクタイルミュージアム

    住所:岐阜県多治見市笠原町2082-5
    TEL:0572-43-5101
    営業時間:9:00~17:00/月曜(休日の場合は翌平日)、年末年始休
    URL:https://www.mosaictile-museum.jp/

    ラムネ温泉館(大分県)

    浴場棟 外観
    浴場棟 外観

    シマウマ模様の外壁と、屋根に生えた松の木が目印のラムネ温泉館。からだが温泉に触れると、しゅわしゅわと泡が弾ける、珍しい温泉なんです。そんな不思議な温泉を世に出すために、不思議な建築物をつくり続ける藤森氏に設計が依頼されました。

    縦縞の外壁には、焼き杉が使われています。焼き杉とは、杉の木の表面を炭化させることで、腐食を防ぐ方法です。漆喰の白と焼き杉の黒のコントラストが、雨の日でも明るい印象を与えます。湯気抜きの塔のてっぺんには長寿のシンボルでもある、松の木がちょこんと植えられています。「ラムネ温泉が長く栄えるように」と藤森氏の祈りが込められています。

    大浴場 内湯
    大浴場 内湯

    しゅわしゅわと溶ける温泉の秘密は、温泉の中に溶け込む炭酸ガスです。炭酸ガスには心臓病やリウマチ、皮膚の炎症を抑える効果などがあるのだとか。

    大浴場には内湯、外湯(露天)が設置されています。ぬるめの外湯は、冬だと少し寒いため、春などの暖かい季節に訪れると、ゆったり外の景色を楽しみながら温泉に浸かることができます。

    美術館
    美術館

    温泉から上がった後の休憩に、併設された美術館にも立ち寄ってみましょう。バーナーで焼かれた杉が柱となって並ぶ展示室内には、静かで清らかな空間が広がっています。常設などで並んでいるのは、地元の作家・田能村竹田などの作品です。身も心も癒されるラムネ温泉。大分へ旅行する際は、ぜひ旅の計画に取り入れてみてください。

    ラムネ温泉館

    住所:大分県竹田市直入町大字長湯7676-2
    TEL:0974-75-2620
    営業時間:10:00~22:00/毎月第1水曜(※1月と5月は第2水曜)休
    料金:大人500円、3歳~小学生200円(3歳未満は無料)
    URL:http://www.lamune-onsen.co.jp/

    丘の上APT/兒嶋画廊(東京都)

    <トタンの家>
    <トタンの家>

    最後に東京都内でも見られる、藤森氏の面白い建物をご紹介します。JR国分寺駅で降り、坂を登って少し歩くと、その建物は現れます。その名も、銀色に光るトタンに包まれた<トタンの家>。外壁の物珍しさに、思わず足が止まってしまうでしょう。

    この建物の中身は、油絵画家・児島善三郎氏のスタジオの跡地に建てられたギャラリーです。世界中でも注目されている“ボロ”(使い古された古布を縫い合わせたもの)をいち早く収集したり、流木や廃材をチェーンソーなどで削った彫刻作品があったりと、ユニークなものを展示するため、藤森氏曰くトタン張りの建物をつくっても許してくれるだろうと、今回の設計を提案したのだそう。

    トタンが菱形模様になり、高級感あふれるキルティングのハンドバッグのようになっているのには理由があります。暑さを吸収してしまうトタンの弱点を防ぐため、断熱層を取るよう合板に長い釘を打ちました。釘がトタンにめり込み、袋状に膨らんでいるのです。それが何ともチャーミングに映ります。

    <トタンの家> 展示スペース
    <トタンの家> 展示スペース

    室内の展示スペースでも新たな試みが行われています。壁と同様、床も白い漆喰塗りにしているのです。そのため、靴を脱いでギャラリーに上がります。茶の間で、絵を鑑賞するような心持ちになります。

    <トタンの家>の隣には、児島善三郎氏の孫で兒嶋画廊のオーナーでもある兒嶋俊郎氏の住居<チョコレートハウス>も建っています。手曲げの銅板でつくられていて、真っ茶色な見た目から<チョコレートハウス>と名付けられたそう。都内で一度に藤森氏の建築物を2つも見られる貴重なスポットです。

    丘の上APT/兒嶋画廊

    住所:東京都国分寺市泉町1-5-16
    TEL:042-207-7918
    営業時間:12:00~18:00/月曜・祝日休
    URL:https://www.gallery-kojima.jp/

    「藤森照信の建築」を目の前にしたとき、足に根が張ったかのようにその場から動けなくなり、ずっと目に焼き付けたくなるほど、懐かしいという感情が湧き上がってきます。まるで古代から、いやそれよりもずっと前から存在していたような、普遍的な建築物に、私たちは心を掴まれてしまうのでしょう。ぽつんと世界から切り離された場所で、普段の生活から、ちょっと抜け出して、藤森氏の建築物に心を癒す旅に出掛けてみてはいかがでしょうか。

    • 記載の内容は2020年9月現在のもので、変更となることがあります。
    ライター:Miwako Mori(minimal)

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