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掲載日:2016.03.31

まだ見ぬ世界を追い求める OCEANS太田祐二編集長の旅スタイル

男性誌『OCEANS』の立ち上げに携わり、2008年より編集長として男臭くもスタイリッシュな男性のライフスタイルを提案し続ける太田祐二さん。きっと旅にも何か男臭いこだわりがあるに違いません。 そこで、太田編集長にご自身の旅の思い出をうかがいながら、彼が思い描く男の旅スタイルについて語っていただきました。
ANAオリジナル

何もないアメリカの片田舎で過ごした高校時代の1年

―― 旅に出ることは多いのですか?

太田祐二さん(以下敬称略):旅といっていいのかわかりませんが、出張で海外に行く機会はちょこちょこあります。年に7、8回くらいかな。コレクションや発表会もありますし、撮影や取材、プレスツアー(企業・団体によるメディア向け招待旅行)も少なくありません。

―― 若いころはいかがですか?一人旅をされたことはありますか?

太田:学生時代に一人で旅したのは、エジプトやインド。友達と2人で車を借りてLAからルート66をひた走る、みたいな旅をしたこともありましたね。でもいちばんは、ちょっと長い“一人旅”になるんですが、高校生のときアメリカのネブラスカ州の田舎町に約1年行ってました。いわゆる交換留学ってやつです。

―― そこで何か衝撃を受けたことはありますか?

太田:ほぼすべてが衝撃ですよ(笑)。だって「ネブラスカ」って、知ってますか?アメリカのほぼど真ん中にある、トウモロコシとカウボーイが有名な州。おいらが行ったところは、起伏のたいしてない土地に延々と続くトウモロコシ畑が広がっていて、隣の家は見えない。ランドマークは、町の名前がでっかく書いてある給水塔くらい。そんな典型的な中西部の町です。そこへ、英語もろくにしゃべれない、海外ほぼ初めてくらいの小僧が放り込まれたんですから。

―― どうしてそこへ行ったのですか?

太田:交換留学なので行先は選べないんですね。アメリカ全土にそのプログラムに協力してくれるホストファミリーがいて、彼らが受け入れる学生を選ぶんです。そこでおいらを選んでくれたのが、ネブラスカ州の、なんと牧師さんの家族。とても保守的な家庭で、小さな町の中で皆のお手本となるような暮らしをしている人たちでした。でも当時おいらは、かなり自由な校風の男子校に通っていまして、とてもお手本となるような生活をしていなかった。なので、こんなおウチに迎えられてしまって「やっていけるのか?」という不安は当初ありました。なにしろ、行った瞬間に「この家ではハードロックやヘビィメタルは聴いてはダメよ!」と怒られましたから(笑)。

―― 日本人もいないような町ですよね?

太田:日本人どころか東洋人すら一人もいなかった。だから、学校や町で「日本から来た」といってもピンとこないんですね。日本とか中国とかの区別もあんまりなくて、「あー、地球のあっちのほう(Far East)から来たのね。パンダはキュートだね。てことは、お前のオトーチャンはニンジャで、オカーチャンはゲーシャか?」と真顔で聞いてくるみたいな。

―― その環境の違いが衝撃だったのですね?

太田:そうですね。アメリカといったら、映画やテレビ、雑誌で見たような、NYや西海岸をイメージしていましたからね。だから、人気の音楽はカントリーミュージックで、娯楽はロデオ観戦、ネブラスカの田舎のそんな環境もそうだし、人々の意識や文化、すべてが衝撃でした。例えば、当時日本ではファッションでいうと“渋カジ”が全盛で、街中でブーツカットのデニムにカウボーイブーツを履いてるような連中がたくさんいました。それが、ネブラスカの高校に行ってみたら、やっぱりみんな同じような格好しているんですよ。テンガロンハット被って、ウェスタンシャツ着て、ブーツ履いてね。「あ、おしゃれだねー」なんて思ったら「何言ってんの?これ牛のウンコ蹴るクツだよ」って(笑)。そう、彼らにはおしゃれではなく、日常的に実用目的なんですよね。家畜の糞を蹴ってよけるために。そのとき気付きました、渋谷でワケも分からずカウボーイブーツ履いてるおいらたちのほうがおかしいって(笑)。

―― 現地の高校に通って授業を受けていたんですよね?言葉の面はどうでしたか?

太田:渡米前は何とかなるでしょ!と気軽に考えていましたが、行ってみたら、理解できない、しゃべれないで、本当にどうにもなりませんでした(笑)。でも、毎日強制的に英語まみれになるわけで、そんな日々を過ごしているとある日突然わかるようになるんですね。

―― 渡米してからどのぐらいで?

太田:1カ月半から2カ月くらいだったかな。それまでチンプンカンプンだった授業が、ある日突然驚くほど理解できるようになる。そういう瞬間が来る。不思議です。

―― そんなものなんですか!?留学は楽しめましたか?

太田:たぶん当時は早く日本に帰りたいと思っていた部分もあるかもしれませんが、今となってはその後の人生に影響を及ぼしたいい経験だったと思っています。自分以外にアジア人のいない環境の中で暮らすなんて、なかなかないことですしね。英語が話せるようになるにつれどんどん友達も増えて、週末は必ず何かしらのパーティに誘われるようになりました。ネブラスカのハイスクールキッズの遊び方は、東京のそれとはまったく違っていて新鮮でしたよ。
部活も熱心にやりました。あちらはシーズン毎に部活が変わる制度になっていて、夏から秋にかけてはアメフトをやって、冬は雪が降るので室内のスポーツを。おいらは冬の部活はレスリング部に入りました。アメフトは体格的にまったくお話にならないのですが、レスリングは体重別で戦えるので対等です。楽しかったですよ。

全身で感じた、人生に影響を及ぼす“旅”の記憶

―― 社会人になってからはいかがですか?

太田:漠然と海外で働きたいという気持ちがあって、大学卒業後はブリヂストンに入社し、海外部に在籍してヨーロッパ市場向けに建機用車両用の特殊なタイヤを売っていました。ベルギーにブリヂストンの欧州拠点があったので、日本から出張してヨーロッパ各国の得意先を回ったりすることもさせてもらいました。ただ、メーカーにいたからでしょうか、“モノ作り”を直接する仕事がしたいという気持ちがどんどん高まってしまい、30歳になる前に出版業に転職しました。学生時代は出版社でバイトしたり、構成作家さんの元でアシスタントをしていたりして、縁があったというのもありますが。

―― なぜ海外に行きたいと思ったのですか?

太田:やはり高校時代の留学が影響しているのかな。いろんな世界を見てみたいという気持ちがあったんだと思います。

―― 振り返ってみて、今の自分に影響を与えている旅や、人生の岐路となった旅はありますか?

太田:ネブラスカの1年を長い旅ととらえれば、間違いなくそれですね。もう25年以上経っていて当時に比べれば英語力は落ちたとはいえ、どこへ行っても英語でコミュニケーションを取れることができることは自分の持つ世界観に何かしらの影響をもたらしているはずですから。あとは、部活でやっていたレスリングも意味があった気がします。白人や黒人の高校生たちと実際に肌と肌を合わせて取っ組み合いをして戦っているでしょう?シーズン中は毎週のように他校との試合があるんですが、おいらはポイントで負けることはあっても、なぜかフォール負けをしたことがなかったんです。そうしたらシーズン最後に“一度もフォール負けしなかった選手”とかよくわからない部門で表彰されまして(笑)。中にはズルイ人もいて体にオイルを塗って現れたり、負けそうになるとつねってきたり、ツバを吐きかけてきたりとか(笑)。そういう人たちも含めて、チカラでねじ伏せて勝てたという経験は大きいですね。そんな部活を通して、何と言ったらいいのかな、日本人特有の外国人に対する苦手意識みたいな感覚、そういう感覚は完全に払拭されたというか……。そんな自信につながっている部分がある気がします。

―― 日本の外で、自分の力で得た自信ですね。

太田:自信がついたとともに、視野が広がりましたね。その“長い旅”があったからこそ、今の自分があると思います。その後の人生において、知りえなかったことを知り、出会うはずのない人と出会えるようになったのも、あの旅があったからだと思います。

アラフォー世代のさまざまな旅の可能性。“オッサン旅”のススメ

―― 最近のお仕事で行かれた場所で、印象に残っている場所はありますか?

太田:昨年の10月に行ったバスク地方は印象的でした。サーフィンの世界大会のひとつ、『クイックシルバー・プロ・フランス』が開催されて、その取材で行きました。バスクは、海岸線近くまで山が迫っていてどこか伊豆に似ている雰囲気もあるのですが、町並みはきれいだし、特に、降り注ぐやわらかい太陽の光とその景色がとにかく美しいと感じました。あと、食事も。魚にしろ肉にしろこれまで訪れたヨーロッパの中でも“美味しさレベル”のいちばん高い地域だと感じました。

―― なかなか行けない場所ですね。

太田:雑誌編集者の仕事の魅力のひとつは、好奇心次第で、普段あまり行けない場所へ行ける、経験できないことが経験できる、会えない人に会えることです。以前、カナダのバンクーバーでシルク・ドゥ・ソレイユの公演を取材したときも特別な経験でした。バックステージを訪れて、中国雑技団出身のアーティストたちと卓球に興じたりして日常の姿をたっぷり観察できました。ほかにも、時計ブランドのブライトリングの取材でネバダ州のリノ・エアレースへ行ったときには、戦闘機で行うエアロバティック(曲芸飛行)に搭乗させてもらったり、取材を通して特別な機会に遭遇できる。そういう仕事のひとつひとつが特別な体験として強く印象に残っています。

―― 最近は若者の旅行離れという話も聞きますが。

太田:なんでだろ?もったいないですよね。国内外問わずまだ見ぬ知らない世界に触れることって刺激的なことだと思うんですけどね。初めて訪れる町や土地に行けば何かしら感じることがある。その非日常の時間で“感じる”刺激がなくて日常ばかり……、なんて考えられません。
おいらの場合は、仕事で海外に出ることが多いので、そういった部分が満たされているのかもしれませんが、この仕事をしていなくても旅のない人生はないかな。旅を通して体験して、感じたことが、いろいろな形で人生を彩り豊かにしてくれる気がします。

―― 『OCEANS』の読者はいかがですか?

太田:『OCEANS』は、いわゆるアラフォー世代を中心とした読者が多いです。したがって、結婚している方が多いですし、まだ手のかかる子供を抱える方も少なくありません。旅の情報も発信していますが、現実的には少し距離があるようで、海外へ旅はしたいけどなかなかできないという声もあります。

―― 『OCEANS』の読者にはどのような旅を提案したいですか?

太田:読者と自分の世代はほぼ同じなのですが、『OCEANS』では読者のことを愛を込めて“オッサン”と呼びます。雑誌としてはおしゃれにしろアクティビティにしろ常に“オッサンライフをもっと楽しもう”という思いを持っていて、旅も、オッサンを楽しむために必要なもののひとつだと考えています。手間がかかっても小さな子供と行く旅も今だからできることですし、また逆にオッサンの一人旅もおもしろい。若いころに一人旅をした読者も大勢いると思うんですが、オッサンになって若いころに行った場所にまた行くっていうのもいい。同じ場所でも違う感じ方や違う景色に見えるかもしれないですしね。「無理をしてでもしよう、オッサン旅!」これからも提案していきます。

―― おもしろそう!

太田:あと、年を重ねれば重ねるほど、家族にはまったく理解されない骨董品とか職人の技が光る工芸品や美術品とか、そんなモノに興味を持つようになる男性って多いんですよね。国内に目を向けるだけでも、素晴らしい職人がたくさんいて傑作を生み出している。そういった職人を訪ね歩いてお気に入りを手に入れるのもいい。例えそれが人にはガラクタくらいの価値のものだって全然いいと思うんです。そんな自分だけの宝物を見つけに行く蒐集旅も、楽しいオッサン旅として推奨したいですね。

まだ見ぬ世界へ。子供のころの夢を叶えるとき

―― 最近、プライベート旅行はしましたか?

太田:昨年、創刊以来、約10年振りにプライベート旅行に行きましたよ。ハワイへ。仕事ではないのであえてあまり計画を立てずに、そのときの気分でサーフィンしたりドライブしたりビーチでくつろいだりとのんびり過ごしました。でも家族旅を楽しくするにはやはり家族を喜ばせることが重要ですね。今回も、以前に取材したことのある各スポットに妻を連れて行って案内したり、スパを予約してあげたり、おいらなりに考えましたが、結局家族が楽しめれば自分も楽しいわけで。ま、妻がスパに行っている間は気兼ねなくサーフィンできる……というのも狙いなんですが(笑)

―― 今後、どこか行ってみたい場所はありますか?

太田:まずは海があるところを思い浮かべがちですが、実際のところプライベートの旅は、これを見たいからとか、これをしたいからといった感じで、旅先を選んだりはしないかもしれませんね。しいて言えば、行ったことのないところでしょうか。ロシアや中南米、北欧などは行ったことがないので、そのあたりが候補になるかな。

―― そこに何を期待していますか?

太田:まだ見ぬ世界。その場所を感じてみたい(笑)。

―― 興味深いですね。

太田:そういう意味では、いちばん行ってみたいのは「宇宙」!実は子供のころは宇宙飛行士になるのが夢でした。単純にロケットとか宇宙飛行士がかっこよかったんでしょうね。小学生になる前のころだったと思うんですが、『宇宙博』というイベントがあって兄貴と連れていってもらったんです。そこで、その人がどんな職業の適正があるのかを分析してくれる装置があって、やってみたら兄貴はパイロット、僕はジャーナリストって結果が出た。実は、おいらの兄貴はいまANAのキャプテンをやっています(笑)。で、おいらは雑誌編集者。すごい装置ですよね?そんなことからも、宇宙に関する話題っていつになっても興味が尽きません。

―― 宇宙旅行、最近は現実的になっていますよ。

太田:そうなんですよね。大気圏から少し出て、無重力空間を味わう程度であれば、代金は1000万円を切ってるとか?ん~、取材で行けたりしないかな(笑)。でも死ぬまでにぜひ行ってみたいです、宇宙は。

―― それこそ究極の“まだ見ぬ世界”ですね。太田編集長ならいつか行けそうな気がします!今日はありがとうございました。

Traveler's Item

特別な旅の経験をともにする太田編集長の旅の相棒

ひと目見て、思わずうわーっと声を上げてしまった年季の入ったスーツケース。「15年くらいかな?ずっと使い続けているRIMOWA(リモワ)です」。ここには太田編集長の旅の思い出が刻まれています。
「RIMOWAってもともと飛行機の外装からヒントを得てつくられているんですよ」と編集長。世界初の金属製旅客機として1919年にドイツで初飛行した航空機<ユンカースF13>のボディに着目し、RIMOWAの軽量かつ頑丈なジュラルミン製のスーツケースが生まれたそうです。
「なんとそのRIMOWAがユンカースF13のレプリカ機を製造し、販売することになり、今年か来年には初飛行を予定しています。昨年アメリカで行われたその発表イベントに招待していただき、そのときに記念にいただいたF13が描かれた非売品のRIMOWAです」。
RIMOWAは、クラフトマンシップを愛する編集長を夢中にさせます。

言葉を選びながら、ゆったりとしたトーンでお話をしてくれた太田編集長が、目をキラリと輝かせていたのが、宇宙旅行の話になったとき。(ひょっとしたら、この人は本当に宇宙に行っちゃうかも)と、思ってしまうほど前のめりにお話ししてくださいました。アメリカの何もない田舎にある宇宙基地まで、愛車のランクルにRIMOWAを無造作に投げ入れてでかけてしまいそう。旅に対して、とことん自然体。

ご自身もアラフォー世代で、同世代を「オッサン」といってはばからない太田編集長。オッサン旅の企画をあれこれと考えている姿はまさに雑誌を作る職人でした。オッサンって……永遠の少年なのかもしれません。

太田祐二(おおたゆうじ)

1972年生まれ。早稲田大学卒業後、ブリヂストン入社。海外部にて勤務した後、出版業へ転職。2001年、主婦と生活社『LEON』の創刊メンバーとして参画。2006年、ライトハウスメディア『OCEANS』創刊に副編集長として携わり、2008年2月より編集長。
webOCEANS:http://oceans.tokyo.jp

ライター:Hikaru Arasawa
Photo by Masashi Yoshikawa

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