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    掲載日:2022.11.16

    反田恭平がナビゲートするワルシャワ【空たびミュージック】後編

    ピアニストの反田恭平さんにナビゲートしていただく「空たびミュージック」ポーランド・ワルシャワ編。ショパンとの関わりなどをお聞きした前編に続き、後編では街並みやグルメの魅力についても教えていただきました。反田さんがショパンを感じる風景や場所とは……?

    さまざまな色が溶け合う秋のワジェンキ公園

    中世の建物が再現された旧市街は、細い街路を歩いていても在りし日の街の姿を偲ぶことができる

    反田さんによると、ショパンを語る上で忘れてはならないのが、哀愁を意味する「ŻAL(ジャル)」というポーランド語なのだそうです。

    「日本語に訳すのがとても難しいのですが、ただ単に哀愁というのではなく、そこに“儚い”や“壊れそうな”などの形容詞が付くとŻAL本来のニュアンスに近いかもしれません。儚い憂いとか崩れそうな悲しみとか。ショパンは自分の手紙にもたくさんŻALという言葉を使っているんです。僕はショパン弾きである限り、ŻALという言葉を正しく理解しなければという思いがありました」

    反田さんはワルシャワ市民によって復元された旧市街を観るときにもこのŻALを感じると言い、また秋になると黄金色に紅葉するワジェンキ公園の風景の中にもそれを感じると言います。

    ショパン像のあるワジェンキ公園では定期的に野外コンサートが開かれ、ショパンの曲が演奏される

    「ショパンのモニュメント像のあることでも有名なワジェンキ公園ですが、めちゃくちゃ広いんですよ。リス、野鳥、孔雀、フラミンゴもいます。とにかく素敵な場所なので、時間があるとよく行きました。日本にいると僕はつい下を向いて歩いてしまいますけど、ここに来ると携帯も見ないで顔をあげて歩いてる自分に気づきます。
    緑の時期ももちろんいいのですが、秋が断然おすすめです。ちょうどショパンコンクールの頃に紅葉が始まって、夕暮れ時にさまざまな色の光が溶けあうように紅葉していきます。最後は黄金色になって、コンクールのファイナルの頃には枯れていく。
    ショパンははっきりとした単色より、淡い色彩やくすんだ陽の光が好きだったんです。やはり彼の色彩感覚は素晴らしかったと思います」

    「変ホ長調のラルゴ」と出逢った新世界通り

    ショパンがミサで演奏していたというヴィジトキ教会。そのパイプオルガンは今も大切にされている

    日本では散歩することの少ない反田さんですが、留学先ではよく街を歩きます。そして散歩の途中、今では知る人の少なくなったショパンの小品「変ホ長調のラルゴ」に出逢います。
    ワルシャワの街にはショパンに縁のある15の場所にベンチが置かれており、ボタンを押すとショパンの曲が流れるようになっています。反田さんがそのボタンを押したのは旧市街の南に1kmほど続く新世界通り(ノビ・シフィア)、ヴィジトキ教会のベンチでした。反田さんはこの曲をショパン・コンクールの三次予選で演奏し、高い評価を受けました。

    「この曲は審査員も、僕の先生ですら知らなかったくらいです。いろいろと調べるうち、ショパンが少年時代に教会でオルガンを弾き、それに合わせて仲間が歌っていた讃美歌などの旋律を、のちにパリで思い出し、その旋律をスケッチとして残したものがこのラルゴだったんです。国歌を彷彿させるような、あるいは子守唄を思わせるような、ポーランド人にとってはとても耳馴染みのあるメロディであり、この曲にはショパンの想いがたっぷりと詰まっている。コンクールで弾き終わって大きな拍手が聞こえた時、とても嬉しかったですね」

    今も残る、ショパンが通っていたレストラン

    ポーランド料理店が軒を連ねる旧市街。実はポーランドの名産であるポルチーニも味わいたいものの一つ

    ワルシャワでショパンを偲ぶことができるのは博物館や公園、教会だけには限りません。空の玄関口にもワルシャワ・ショパン空港と、その名が冠されていますし、市内にはショパンの名の付いたホテルやカフェ、レストランも点在しています。

    「素晴らしいのは実際にショパンが通っていたレストランが今でも営業していることです。ファンとしても、ピアニストとしてもそりゃ行きたいわけですよ。で、お店で『ショパンは何食べてたんですか?』って聞いたら、『全部』だって(笑)。
    そんな答えだったにも関わらず、僕は何度も足を運びました」

    ジュレックは野菜と肉のスープにライ麦粉を発酵させたザクワスを混ぜたポーランドの家庭料理

    「仔牛のカツレツやピエロギは美味しかったですね。でも僕の一番好きな料理はなんと言ってもジュレックです。ライ麦を発酵させたポーランドの伝統的なスープで、そのレストランでは大きめの丸いパンをくり抜いた器に入って出てくるんですよ」

    正しいショパンの音楽を学べる――その喜びを胸に、反田さんは4年間をこの街で過ごし、ショパン・コンクールで2位入賞という快挙を果たしました。
    ワルシャワという街はただそこに居るだけで本当のショパンに触れることができ、またショパンを頼りに街を歩けば、その歴史やこの国の人々の想いをもっと身近に感じることができる。クラシック音楽が好きな人はもちろんですが、そうでない人にも、ショパンは今なお、ワルシャワの良き道案内人となってくれているようです。

    前編では、ショパンが愛したワルシャワの魅力を反田恭平さんが語っています。ぜひご覧ください。
    反田恭平がナビゲートするワルシャワ【空たびミュージック】前編はこちら

    photo:Yuji Ueno
    反田 恭平(ソリタ・キョウヘイ)

    2016年のデビュー以来、リサイタルやオーケストラのツアーなど国内外を巡り、2018年からは自身が創設したJapan National Orchestra(JNO)をプロデュースしている。JNOは2021年より株式会社として、またオンラインサロン「Solistiade」の運営も行うなど、クラシック業界の新しいあり方にも尽力している。2021年第18回ショパン国際ピアノコンクールでは日本では半世紀ぶりとなる最高位2位を受賞した。

    ウェブサイト:Kyohei Sorita Official Site

    ライター:若林 葉子

              

                                                             

                                                             

                                                             

                                                             

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