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掲載日:2018.10.04

ヨーロッパのアート・シーンを彩る安藤忠雄のミュージアム建築の世界

独学で建築を学び、個性的な作品を世に送り出してきた建築家・安藤忠雄。代表作として数多くあるミュージアムの建築においても、土地の風土や気候に呼応して「その場所にしかできない」豊かな空間を生み出してきました。その建築と芸術作品が刺激的にぶつかり合うことで互いの存在を引き立て合い、鑑賞者に稀有の体験を与えるアートの空間──。イタリア、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ各国でアートを彩る、安藤忠雄氏のミュージアム建築を紹介します。
ANAオリジナル

新旧の建築空間が対峙する パラッツォ・グラッシ(イタリア)

外観を覆う光のオブジェはオラファー・エリアソン氏の作品「Your Wave is」
Photo by Mitsuo Matsuoka

数多くの歴史的建造物が立ち並ぶイタリア・ヴェネツィア。「世界で最も美しい広場」と呼ばれるサン・マルコ広場からほど近い場所に位置する「パラッツォ・グラッシ」は、18世紀後半につくられた新古典主義の邸館建築です。安藤忠雄氏が依頼を受けたのは、その邸館を改修し、美術館として利用するためのプロジェクト。イタリアらしく、歴史的建造物の保全に厳しい規制を敷かれたエリアのため、外観に手を加えることは許されませんでした。が、安藤忠雄氏はその「歴史の継承」というテーマを正面から受け止め、その精神をディテールに至るまで徹底して突き詰めることで、逆説的に、かつての邸館を美術館として再生することに成功しています。

伝統的な天井の装飾と、白璧による展示スペースが共存している
Photo by Mitsuo Matsuoka

安藤忠雄氏はまず、建設以来の幾たびかの増築で原型が見えにくくなっている建物を竣工当時の姿に復元しました。そしてそのうえで、白い壁に覆われた展示空間を入れ子状に配置。天井装飾などはそのままに、既存の建築のエッセンスを積極的に活かすことで、ひとつの建築のなかで新旧が対話する空間をつくり上げました。

天井から吊り下げられたウルス・フィッシャー氏の「Vintage Violence」。
正面にはピオトル・ウクランスキ氏の「Untitled」
Photo by Mitsuo Matsuoka

天から降り注ぐように展示されているのは、ウルス・フィッシャー氏の作品「Vintage Violence」。そして、メイン階段の正面には、ピオトル・ウクランスキ氏の「Untitled」。建物の空間と作品が調和し、荘厳な景観を演出しています。新旧が対峙する空間のシークエンスに、不意にアートが登場する、驚きと発見に満ちた場所となっています。

パラッツォ・グラッシ/Palazzo Grassi

URL:https://www.palazzograssi.it

歴史的建造物の個性が際立つ プンタ・デラ・ドガーナ(イタリア)

15世紀から海の税関としてあったプンタ・デラ・ドガーナ
Photo by Shigeo Ogawa

「パラッツォ・グラッシ」のあるサン・マルコ広場の対岸。「プンタ・デラ・ドガーナ」は、ヴェネツィアのドルソドゥーロ島の先端であるこの敷地の名前です。15世紀に建てられた、国が所有する歴史的建造物「海の税関」を、現代美術館に改装したこのプロジェクト。建物は、岬の形状に沿って縁取られた三角形の平面を外壁と同じレンガ造の壁で短冊状に分割した構成。老朽化したこの建物を構造的に補強し、増水対策を施したうえで、美術館として蘇らせることが、安藤忠雄氏に課せられた使命となりました。

来館者が最初に足を踏み入れる展示スペース。
レンガの壁や屋根を支える木造トラスは、建設当初の形に修復された
Photo by Shigeo Ogawa

ヴェネツィアの運河沿いで、先に完成させたパラッツォ・グラッシと同じく、まず安藤忠雄氏は、建物を15世紀の建設当初の形に戻すことを第一に考えました。度重なる改造によって加えられた仕切り壁などが取り払われるなかで、本来のレンガ壁、木造のトラス小屋組が露わになり、建物本来の明快な構成が浮かび上がってきました。

厚さ300mmのコンクリートの壁に覆われたセントラルコート
Photo by Shigeo Ogawa

建物中央部の、2スパンを1室とした部分については、例外的に現状のままとして、コンクリートの壁で覆われた空間を挿入。頭上からの光の下に、過去と現在のテクスチャが対峙する空間が生まれました。建物本来の個性を引き出しつつ、新たに加えられた建築的要素によって、空間の魅力をさらに際立たせる──。安藤忠雄氏の理念とアイデアが存分に詰まった建築と言えるでしょう。

プンタ・デラ・ドガーナ/Punta della Dogana

URL:https://www.palazzograssi.it/it/about/spazi/punta-della-dogana/

島の自然と建築が溶け合う「アートの楽園」 ランゲン美術館(ドイツ)

水盤に沿ったL字型のアプローチから、美術館の入り口が見える
Courtesy of Ando Architect & Associates

ドイツ・デュッセルドルフ郊外にあるアート施設「インゼル・ホンブロイッヒ」。アートコレクターのカール・ハインリヒ・ミュラー氏が、川沿いの広大な湿地帯に浮かぶ島を丸ごと「美術館島」として蘇らせた、世界的にも稀有な美術館です。1994年、そのなかのギャラリーのひとつ「ランゲン美術館」の設計を任されたのが、安藤忠雄氏でした。しかし、資金繰りの問題などもあり、アイデアを提出してから実際につくり出すまでには、かなりの年月を要しました。

常設展示棟1階西側。
イタリア人アーティスト、ミンモ・パラディーノ氏の作品が展示されている
Courtesy of Ando Architect & Associates

「これほどの長期間、ひとつの建築を考え続ける機会を得られたのは、仕事としては苦しい一方で、ひとりの表現者としては幸運だったのかもしれない」
(TOTO出版「安藤忠雄の建築2」p.274)

完成までに10年の月日を要したこのプロジェクトについて、安藤忠雄氏はこう語っています。ランゲン美術館の建築を織りなすのは、やわらかな光で満たされた「静」の空間と、光が交錯する躍動的な「動」の空間。「自然に溶け込んで一体化する」という島の美術館全体のコンセプトに共鳴した安藤忠雄氏は、それらを緑のなかで控えめに立つ「アートの器」のイメージに重ね合わせていきました。

安藤建築の特徴とも言える、コンクリートとガラスによる二重皮膜構造の常設展示棟
Courtesy of Ando Architect & Associates

「静」の空間である常設展示棟では、美術館の中にいながら森のなかを歩いているような、内側と外側の空間の流動性を演出。コンクリートとガラスの入れ子構造によって、日本建築の「縁側」のような空間となっています。一方で、企画展示棟は「動」の空間として、閉ざされた箱にスカイライトで劇的な光を取り込むストーリーを考案しました。幾何学的な構成の建物内に自然光が走ることで、空間に豊かな表情をつくり出しています。
インゼル・ホンブロイッヒを初めて訪れたとき、安藤忠雄氏は「ここにアートの楽園がある」と感じたといいます。島の自然に溶け込み、そのエッセンスを凝縮した安藤建築。きっとあなたに、素敵なアートとの出会いをもたらしてくれるはずです。

ランゲン美術館/Langen Foundation

URL:https://www.langenfoundation.de

ライター:Daiki Yamamoto(minimal)
Cover Photo by Mitsuo Matsuoka
Photo by Tadao Ando Architect & Associates, Shigeo Ogawa, Mitsuo Matsuoka

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